研究課題/領域番号 |
21K07512
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
江崎 加代子 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (20744874)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 精神神経疾患 / 統合失調症 / スフィンゴ脂質 / 脂質生化学 |
研究実績の概要 |
これまでに我々は、統合失調症患者死後脳の白質(脳梁)においてスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の含量が有意に低下しており、さらにS1P受容体の遺伝子発現が増加していることを明らかにした。さらに、薬理学的精神疾患モデルマウスにS1P受容体の外因性リガンドを投与すると精神疾患様行動異常を抑制することを明らかにしている。これらの知見から、S1P受容体の外因性リガンドが統合失調症の治療薬候補となる可能性が示唆された。そこで、本研究ではS1P受容体外因性リガンドの投与がどのようなメカニズムで行動異常を抑制したのか明らかにするため、外因性リガンドAを投与したマウスの脳組織(脳梁および前頭葉)を採取し、RNA-seqによる解析を行った。得られた遺伝子発現変化解析結果についてGene Ontology解析を行ったところ、Gタンパク質共役受容体(GPCR)であるS1P受容体のリガンド投与によってGPCRシグナルに関する遺伝子が動いていたのはもちろん、感覚器発達や神経伝達物質受容体やポストシナプスのシグナル伝達に関する遺伝子などの発現上昇、アミン類およびカテコール含有化合物の生合成に関係する遺伝子などが発現低下していることが明らかになった。 また、認知症などの精神症状の高頻度の併発が報告されている神経疾患患者においてスフィンゴ脂質合成酵素の変異が同定されたことから、患者およびそのご家族の血漿サンプルについて解析を行い、精神神経疾患の病態メカニズムにおけるスフィンゴ脂質代謝異常の関与の可能性について検討した。血漿サンプルからスフィンゴ脂質を抽出し、質量分析計を用いてスフィンゴ脂質含量変化を解析した。現在はそれらの分析データについて解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
S1P受容体外因性リガンドを2週間投与したマウスの脳組織を採取し、RNA-seqを行った。RNA-seqで得られた遺伝子発現変化のデータを用いてGene Ontology解析を行った結果、Gタンパク質共役受容体(GPCR)であるS1P受容体のリガンド投与によってGPCRシグナルに関する遺伝子が動いていたのはもちろん、感覚器発達や神経伝達物質受容体やポストシナプスのシグナル伝達に関する遺伝子などの発現上昇、アミン類およびカテコール含有化合物の生合成に関係する遺伝子などが発現低下することが明らかになった。 また、ヒト血漿におけるスフィンゴ脂質抽出法、内部標準物質の最適濃度について検討を行い、その方法を確立した。その後、認知症などの精神症状の高頻度の併発が報告されている神経疾患患者およびそのご家族(複数家系)の血漿サンプルについてスフィンゴ脂質抽出を行ったのちに質量分析装置を用いて分析を行った。現在は脂質分析データについて解析を進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
S1P受容体外因性リガンド投与マウスの脳組織のRNA-seq遺伝子発現変化において、Gene Ontology解析で抽出された分子機能や生物プロセスに関連する遺伝子についてquantitative realtime-PCR解析で定量的な解析を行う。また、薬理学的精神疾患モデルであるメタンフェタミン投与マウス、およびその薬理学的精神疾患モデルに治療薬候補となるS1P受容体外因性リガンドを投与したマウスの脳組織についても同様の手順でRNA-seq解析、Gene Ontology解析、quantitative realtime-PCR解析を進めていく。さらに、神経疾患患者血漿における脂質分析を進め、病態メカニズムとスフィンゴ脂質代謝の関連について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に新型コロナの感染拡大の影響による実験の遅れが生じていたため。次年度は脳組織のRNA-seq解析やGene Ontology解析、quantitative realtime-PCR解析などをより活発に進めていく。また、血漿脂質解析に関してもサンプルサイズを拡大して解析を進める予定である。
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