研究課題
統合失調症は世界的に有病率約1%のありふれた疾患であるが、その生物学的基盤は明らかでなく、診断や治療は症状と経過に依存している。本研究の目的は、統合失調症の病態機序において、低酸素―低酸素誘導因子(HIF)―マクロファージ遊走阻止因子(MIF)経路の役割を明らかにし、治療標的やバイオマーカーとして臨床応用へ展開するための研究基盤を確立することである。R3年度の実験としては、統合失調症患者と健常対照者の末梢血由来DNAを用いて、MIF遺伝子プロモーター領域に存在する、HIF結合部位である低酸素応答領域(HRE)に存在するSNPの多型解析を行った。その結果、このSNPのマイナーアレルが統合失調症患者群では有意に多く、リスクアレルであることを見出した。性別によるサブグループ解析を行ったところ、これらの結果は女性において男性よりも顕著であった。さらに新生仔C57BL/6マウス皮質由来アストロサイトの初代培養系を用いて、低酸素によるアストロサイトのMIF発現機構の解析を進めた。HIF活性化因子であるML228によるMIF mRNAの有意な増加を見出した。さらに低酸素処置による実験を行い、MIF mRNAとMIF蛋白が低酸素条件で有意に増加することを見出した。マウスMIF遺伝子プロモーター領域においても、ヒトMIF遺伝子と相同するHRE領域が存在する。低酸素応答におけるMIF遺伝子発現機構について、ルシフェラーゼアッセイ法を用いて、プロモーター活性に変化の解析を進めている。新生仔マウス海馬由来神経幹細胞の初代培養系も維持継続している。また患者および健常者由来iPS細胞の樹立と長期培養維持継代も継続して行っている。
2: おおむね順調に進展している
MIF遺伝子プロモーター領域のHREに存在するSNPについて、統合失調症患者群と健常対照群の末梢血由来DNAを用いた多型解析を行い有意な結果を得た。また新生仔マウスからアストロサイトおよび神経幹細胞の初代培養系について、安定して細胞培養を継続し実験に使用している。アストロサイトにおいて、低酸素処置によるMIF発現に関与するシグナル伝達経路の解析を進めている。MIF遺伝子のHRE領域の影響について調べるために、ルシフェラーゼアッセイ法を用いてMIFプロモーター領域の活性の変化について解析を進めている。さらに多型解析で見出したSNPに相当する変異アレルの作用についても解析を行っている。よって、おおむね順調に進展している。
臨床サンプルを用いた実験としては、ひきつづき統合失調症患者群と健常対照者群のサンプルの集積と解析を進める。培養細胞を用いた実験としては、マウス由来アストロサイトにおける低酸素処置によるMIF発現増加のシグナルを調べるため、シフェラーゼアッセイによる解析をひきつづき行う。種々の変異による影響について解析を進める。マウス由来神経幹細胞については、低酸素による増殖・分化・生存(抗アポトーシス)といった細胞表現型の変化におけるMIFの役割の解析を進める。患者由来ヒトiPS細胞を用いた解析も進める予定である。統合失調症はありふれた疾患であるが、生物学的機序の解明は遅れている。MIFは、これまで統合失調症との関連について世界に先駆けて我々が報告しており、本研究計画により統合失調症の生物学的解明に大きく貢献できると考える。
新型コロナ感染症への対応等のため、当初計画していた事業ができなかったため次年度使用額が生じた。臨床サンプルを用いた実験としては、ひきつづき統合失調症患者群と健常対照者群のサンプルの集積と解析を進める。培養細胞を用いた実験としては、アストロサイトにおける低酸素処置によるMIF発現増加のシグナルを調べるため、シフェラーゼアッセイによる解析をひきつづき行う。種々の変異による影響について解析を進める。マウス由来神経幹細胞や患者由来ヒトiPS細胞を用いた解析も進める予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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