研究課題/領域番号 |
21K07525
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
久岡 朋子 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00398463)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / 注意欠如・多動性障害 / ドーパミン / 前頭前皮質 / シナプス接着分子 |
研究実績の概要 |
1. Kirrel3欠損マウスの高速液体クロマトグラフィー解析の結果、前頭前皮質(PFC)のドーパミン(DA)量に異常のある可能性を見出したことから、PFCにおけるKirrel3発現細胞を同定するために、Kirrel3ヘテロ欠損/LacZ遺伝子導入マウスを用いてβ-ガラクトシダーゼと興奮性、及び抑制性ニューロンのマーカーに対する抗体により二重免疫染色を行った。Kirrel3発現細胞は、PFCの2~5層に広く発現し、ほとんどがGluR2/3陽性であったことから、主に興奮性投射ニューロンであることが示唆された。PFCの投射ニューロンには、腹側被蓋野(VTA)のDAニューロンからの投射があるため、VTA-PFCシナプスの形成異常がKirrel3欠損マウスのDA量の異常に関連する可能性を考え、Kirrel3欠損マウスにおけるVTA-PFCシナプス部の形態異常の有無を組織学的に検討中である。 2. ADHD治療薬でDA伝達系の賦活薬であるメタンフェタミン1 mg/kgをKirrel3欠損マウスの腹腔内に投与し、ADHD様行動(多動)が改善するかをオープンフィールドテストの移動距離を指標として検討したところ、Kirrel3欠損マウスにメタンフェタミン投与した群は、非投与群と比べて移動距離の有意な増加が見られた。現在、ADHDの第一選択薬であるメチルフェニデートの効果についても検討中である。DA賦活薬により多動が悪化したため、次にDA2型受容体(D2R)拮抗薬のハロペリドール0.05 mg/kgをKirrel3欠損マウスの腹腔内に投与したところ、非投与群と比べて移動距離が有意に減少した。これらのことから、Kirrel3欠損マウスではADHDを伴う自閉症様行動の病態に、ADHDで報告されているDA伝達系の低下とは異なり、特にD2Rを介したDA伝達系の亢進が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬でドーパミン系賦活薬のメタンフェタミンを投与した結果、多動の亢進が見られ、ドーパミン2型受容体(D2R)拮抗薬を投与した結果、多動の改善が見られたことからドーパミン伝達系が亢進している可能性が示唆された。これらの結果から、Kirrel3欠損マウスのADHDを伴う自閉症様行動の病態にD2Rを介したドーパミンシグナル伝達の亢進が関与している可能性が考えられる。今後、D2R拮抗薬の投与によるADHDを伴う自閉症様行動の改善効果とそのメカニズムを解明していくという方向性が明らかとなってきており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1. Kirrel3欠損マウスへのドーパミン(DA)シグナル制御薬剤投与による自閉症様・ADHD様行動、及びモノアミン量異常の改善効果の検討 ①Kirrel3欠損マウスにADHD様行動の改善効果の見られたドーパミン2型受容体(D2R)拮抗薬等を投与し、自閉症様行動(反復行動や社会認識障害、聴覚過敏)の改善効果を検討する。また、DAシグナル制御薬剤のメチルフェニデートやリチウムによるADHD様行動改善効果についても検討し、Kirrel3によるDAシグナル制御機構を明らかにする。②薬剤投与によるモノアミン量の改善効果を検討するために、Kirrel3欠損マウスにD2R拮抗薬を投与し、前頭前皮質や線条体におけるモノアミン量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定する。 2. Kirrel3のDA神経回路における発現と役割の検討 ①発達過程や成獣の前頭前皮質や線条体のDAシナプスにおけるKirrel3タンパクの発現部位を同定するために、抗Kirrel3抗体とDAシナプスマーカー(ドーパミン代謝酵素、ドーパミントランスポーター)を用いて蛍光二重免疫染色法を行う。②前頭前皮質や線条体におけるKirrel3欠損マウスのDAシナプス回路発達やDAシグナル伝達の異常の有無を、DAシナプスマーカーやドーパミン受容体(D1R, D2R, D3R等)、及びシナプス関連タンパク(PSD95, Synapsin1等)を用いた免疫染色法やウェスタンブロット法、リアルタイムPCR法により検討する。また、電子顕微鏡法やゴルジ染色法により神経樹状突起スパインやシナプス構造の形態異常の有無を検討中であり、さらに個体数を増やして検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に動物飼育舎の工事に伴うマウス飼育舎の一時移設と行動解析室の使用禁止期間があるため、飼育環境に最も影響される行動解析に必要な試薬の購入を先に行い、当該年度に予定していたドーパミン神経回路の解析に使用する金額の一部を次年度に繰り越した。また、来年度中に投稿を予定している論文の校正や論文掲載費用に使用する。
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