研究実績の概要 |
本邦認知症罹病者は2020年に約630万人、2050年には1,000万人となる。その6割はアルツハイマー型である。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)のような抑制薬が用いられるが、根治療法ではない。そこでヒトiPS細胞(理研253G1株)由来の細胞を、EB化、神経系への分化刺激(retinoic acid、sonic hedgehog、nogginを培地に添加)を施してニューロン前駆細胞(NSPCs)とし、この細胞を認知症モデルマウス(PDAPP-Tg系)の海馬に移植したら認知機能が改善した。NSPCs移植が認知症マウスの神経回路の再構築をした可能性が高い。移植NSPCsがReelinを産生し、宿主と移植細胞に作用して下流の、細胞内アダプタータンパク質であるDisabled1(Dab1)とセリンスレオニンキナーゼAktをリン酸化し、その下流の細胞内シグナル伝達を経てEphrinB3がシナプス形成を活性化する経路が推定され、一方でEphA4のシグナル伝達を遮断することで認知症マウス海馬の神経再生を誘導して神経回路が再構築し、認知機能が改善したと推定された。本研究では移植NSPCsが認知症での解剖学的・機能的な再生を起こす際の神経回路の再構築および、宿主神経組織との高次構造形成時におけるReelinからEph/Ephrinに至るまでのシグナル経路を介した細胞分化およびその成熟による回復メカニズムを解明した。一方、Tgマウスの脳サンプルで14種類のケモカインリガンドの発現をWtマウスと比較したところ、驚くことに、1種を除き調べた全てのケモカインリガンドで発現亢進が見られた。ADなど脳変性疾患にBBB(血液脳関門)が関連し、さらにEphレセプターの関与が疑われている。このことから、続いて起こっていると思われるケモカインレセプター発現細胞の動態を探ることが求められた。
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