初年度はCGRPをマウスに脳室内投与すると、Npas4の増加が起こり、恐怖記憶の保持が抑制されること、その調節機序にCGRPがリン酸化HDAC5の増加を引き起こし、ヒストンアセチル化を促進させ、Npas4の転写を活性化させ、Npas4の発現増加につながることを明らかにし、報告した。 次年度はCGRPをマウスに鼻腔内投与すると、脳海馬でのCGRP量が増え、光嫌悪性行動を示した。恐怖記憶に対する影響は、脳室内投与より効果が少ないものの恐怖記憶保持の抑制がみられた。また、脳室内投与と同様にリン酸化HDAC5が増加し、Npas4の転写を活性化させること、さらにそれはCGRP受容体拮抗薬のBIBN4096の投与により抑制されること、恐怖記憶の保持が抑制されることを明らかにし、報告した。 最終年度は、CGRPが起こす不安様行動について検証を行った。CGRPを海馬に脳固定装置を用いて投与すると、脳室内投与と同様に不安様行動を引き起こす。このとき、脳海馬内のドパミン量が、ドパミン代謝酵素のMAOB増加を伴って起こることを明らかにした。その作用機序に転写調節因子のKruppel様転写因子ファミリーのKLF11がCGRPにより増加し、ヒストンクロマチンタンパク質であるHP1γのリン酸化が増加することで、結果的にMAOBの転写促進が活性化されることを明らかにした。CGRP海馬投与による不安様行動はMAOB阻害薬であるセリギリンやMAOBsiRNAによるMAOBのノックダウンでも抑制された。これらの結果より、CGRPによる不安様行動はMAOBを介したドパミン減少により、エピジェネティックな調節を受けていることが明らかとなり、報告した。
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