研究課題/領域番号 |
21K07535
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
渡邉 惠 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 微細構造研究部, リサーチフェロー (80302610)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症 / マーモセット / 陽電子放出トモグラフィー / シナプス / ミクログリア |
研究実績の概要 |
マーモセットはヒトに近い霊長類であり、マーモセットの自閉スペクトラム症(ASD)モデルはASDの病態の解明や治療法の開発に有用と考えられる。本研究では、マーモセットの胎生期バルプロ酸曝露個体をASDモデルとして用いる。これまでの研究から、ASDでは脳のシナプスやミクログリアに異常がみられることが示唆されている。これらの異常を非侵襲的に測定するためには、PETイメージングが有効である。 はじめにマーモセットの定型発達個体を用いて、AMPA型グルタミン酸受容体に対するリガンドである[11C]K2の有効性を検討した。マーモセットを麻酔して小動物用PET装置に固定し、静脈内に[11C]K2を約45 MBq投与してPETイメージングを行った。その結果、大脳皮質を中心に明瞭なシグナルが記録されたことから、[11C]K2により興奮性シナプスを測定できることが示唆された。次にミクログリアの活性化の指標となるtranslocator protein(TSPO)に対するリガンドである[11C]PBR28を投与して、有効性を同様に検討した。PETイメージングを行った後、炎症誘発物質であるリポ多糖を少量投与し、再度イメージングを行ったところ、脳全体でシグナルの増加が認められたことから、[11C]PBR28によりミクログリアの活性化を測定できることが示唆された。 以上の結果から、[11C]K2および[11C]PBR28を用いるPETイメージングによって、ASDモデル個体のシナプスとミクログリアに関連した病態を評価することが可能であると考えられた。今後ASDモデル個体におけるPETイメージングを進めることにより、ASDの病態が明確になり、新たな治療法の開発につながる知見が得られることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにマーモセットのPETイメージングの手法を確立した。これによってASDモデル個体のシナプスとミクログリアに関するデータを取得することが可能になった。今後半年程度でASDモデル個体の測定を完了できる見込みであり、本研究は計画通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
マーモセットの定型発達個体およびASDモデル個体を用いてPETイメージングを行い、各群について6匹程度からデータを得る。これらのデータを解析し、脳のどの部位でシナプスやミクログリアに関連した病態がみられるか明らかにする。これらのデータをヒトのASDで報告されているデータと比較し、ヒトのASDのモデルとしての妥当性を評価する。さらにトランスクリプトームデータのパスウェイ解析などに基づいて、シナプスやミクログリアに関連した異常に効果を示す可能性のある薬物を選定する。これを定型発達個体およびASDモデル個体に投与して、ニューロンやミクログリアに関する組織学的解析等を行い、効果を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として高額なPETイメージング用の放射性リガンド合成試薬の購入を予定していたが、在庫を活用することにより本年度は少量の購入で済んだため、次年度使用額が生じた。今後は新たな試薬の購入が必要となるため、次年度分と合わせて主に試薬の購入に使用する。
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