研究課題/領域番号 |
21K07538
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
木村 昌由美 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 教授 (40216859)
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研究分担者 |
神林 崇 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 教授 (50323150)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | レム睡眠 / 神経ペプチド / ヒト脳脊髄液 / コルチコトロピン放出ホルモン / メラニン凝集ホルモン / オレキシン / ニューロテンシン |
研究実績の概要 |
神経ペプチドによる睡眠-覚醒調節メカニズムにおいて、覚醒系(レム睡眠の抑制系)に働きかけるオレキシンの研究報告が現状では中心を占めている。その一方で、筑波大の林らのグループは、レム睡眠およびノンレム睡眠両方の調整に関わる脳幹部に位置する神経細胞はニューロテンシンを神経伝達物質としており、レム睡眠を抑制してノンレム睡眠を増やす作用があることを発見した。ニューロテンシンはオレキシンの実行系の1つとしても考えられている。睡眠系、特にノンレム睡眠では視床下部の腹側外側視索前野が実行系であ り、ガラニンの他に抑制性神経伝達物質のGABAを持つことが知られている。レム睡眠促進系としては、視床下部オレキシン神経の近傍にあり、投射先も類似しているメラニン凝集ホルモン(MCH) と視床下部室傍核、大脳辺縁系扁桃体、および中脳青斑核に産生細胞を有するコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)が知られている。オレキシンとMCHのダブルノックアウトマウスでは、レム睡眠が著明に増加することが報告されている。視床下部室傍核に存在するCRH神経は、下垂体前葉にCRHを分泌してストレス反応を誘起する一方、辺縁系のCRH神経はレム睡眠を増やす作用がある。これらのレム・ノンレム睡眠に関係する神経ペプチドは、遺伝子操作マウスの動物実験でその作用が明らかにされているが、睡眠障害を患うヒトの脳内でどのような動態を示すかは知られていない。 レム睡眠の調節に深く関与するMCH・CRH神経の活動の指標としてヒト髄液中のMCHとCRHを測定することは、レム睡眠の生理学的な役割を解明するために非常に重要と考えられる。また同一の検体で、オレキシンとニューロテンシンもMCHとCRHと共に測定して、ペプチドによる睡眠-覚醒調節の機序を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過眠症などが疑われて、オレキシン等の測定依頼を受けた約30検体にて、髄液中のオレキシン、ニューロテンシン、MCHの測定をRIAにて行った。CRHの測定はELISAで行った。この研究は秋田大学医学部と筑波大学の倫理委員会の審査を経ている。 オレキシン:0.1ml、ニューロテンシン: 0.1ml、MCH: 0.25ml, とCRH: 0.1ml の検体量にてそれぞれ髄液中での測定が可能であることを確認した。オレキシン(40-400pg/ml)、ニューロテンシン(2-11pg/ml)、MCH(10-130pg/ml), とCRH(10-220pg/ml)の測定値であった。 オレキシンとニューロテンシンでは、r= 0.456, p = 0.0024の正の相関を認めた。レム睡眠促進系と考えられる、MCHとCRHでは相関等は認めなかった。オレキシンとMCH、CRHや、ニューロテンシンとMCH、CRHの相関・逆相関も認めなかった。 新たに高齢の認知症の検体にて、MCHの測定を行ったところ、比較的に年齢層の低いこれまでに測定した検体に比べて高値の結果が得られ、年齢により有意な相関を示す可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討では、オレキシン量とニューロテンシン量に相関の傾向がみられた。これにより、ニューロテンシンはオレキシン系と共に働いて、レム睡眠を抑制する効果をもたらすと考えられた。 ニューロテンシンのノンレム睡眠を増やす作用とオレキシン系の関係については今後の注意深く検討を重ねる必要である。 またレム睡眠促進系と考えられるMCHとCRHでは相関が弱いことから、協同して働いている可能性は高くはないと考えられる。 今回高齢の認知症の検体を追加してMCHの測定を行ったところ、比較的に年齢層の低いこれまでに測定した検体に比べて高値の結果が示され、年齢により有意な増加の可能性が考えられた。しかしながら年齢による変化であるのか、疾患群による差であるのかについて、詳細な検討を続ける必要があり、今後の課題と位置づけている。 最近見つかった冬眠や睡眠を促進する新規のペプチドであるQRFPの測定が可能となったので、対象を拡げて検討を重ねて行きたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度の検体収集の遅れが2022年度の測定スケジュールにまで影響し、研究費の次年度使用を計画せざるを得なくなった。また、2022年度には国際学会への現地参加を実行できたが、2021年度の繰り越し分は、最終年度である2023年度において総括的な成果発表の機会へ活用したいと考えている。
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