研究課題/領域番号 |
21K07539
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神出 誠一郎 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (30376454)
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研究分担者 |
菅谷 佑樹 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (00625759)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 海馬 / 苔状細胞 / カンナビノイド / イメージング / エピソード記憶 |
研究実績の概要 |
内因性カンナビノイドは細胞膜から産生される脂溶性の物質で、脳内で逆行性神経伝達物質として作用し、カンナビノイドCB1受容体を介して記憶・情動・食欲などを制御していることが知られている。CB1受容体は多くの脳部位で発現がみとめられるが、特に海馬歯状回の苔状細胞の軸索終末に強く発現し、精神疾患横断的に呈する認知機能障害の発症機序と関連が注目されている。本研究では、海馬が関連しているエピソード記憶の形成や想起、消去時における苔状細胞軸索終末のCB1受容体活性に注目し、in vivoイメージングと遺伝子改変技術を用いてエピソード記憶への苔状細胞軸索終末のCB1受容体の役割を詳細に検討する。これによって、海馬歯状回のカンナビノイド受容体と認知機能障害の関連の一端が解明されることと、新たな治療法開発につながることが期待される。令和3年度は、遺伝子改変マウスとウイルスを用いた遺伝子導入を組み合わせた手法により、歯状回苔状細胞に選択的にカンナビノイドセンサーを発現させたマウスを作成した。このマウスの歯状回直上にレンズを埋め込み、1週間後に生体深部を観察できる2光子顕微鏡を用いて、麻酔下のマウスの歯状回苔状細胞に顆粒細胞や介在細胞から入力する内因性カンナビノイドシグナルを観察した。その結果、麻酔下のマウス歯状回において蛍光強度の変化がみとめられ、in vivoで歯状回苔状細胞に入力する内因性カンナビノイドシグナルが検出できることが明らかとなった。現在は、このマウスを用いて探索行動中や恐怖学習中の内因性カンナビノイドシグナルの測定を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、苔状細胞特異的cre組み換え酵素発現マウス(以下Mossy-Creマウス)の歯状回に、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターにカンナビノイドセンサーを組み込んだAAV-Syn-flex-GRABeCBを定位的に注入し、CB1受容体センサーを苔状細胞特異的に発現させたマウスを作成した。GRINレンズをMossy-Creマウス歯状回内側分子層直上に設置し、2光子顕微鏡によって麻酔下のMossy-Creマウスの歯状回を観察したところ、非常に低頻度ではあるがカンナビノイドセンサーの発現と内因性カンナビノイドによる蛍光変化が確認できた。 次に、このMossy-Creマウスに微小顕微鏡を設置して、自由行動下において歯状回苔状細胞に入力する内因性カンナビノイドシグナルを観察した。10分間の探索行動中の苔状細胞のCB1受容体の活性を記録したところ、あきらかな蛍光強度の変化は認められなかった。次に、痕跡恐怖条件付けを行っている最中の蛍光強度変化を記録した。痕跡恐怖条件付けは、全5分のセッションで、3回の条件刺激(音)と無条件刺激(四肢への電気ショック)の組み合わせにより条件付けを行った。条件付けの際に微小顕微鏡によりCB1受容体活性のイメージングを行ったが、やはりあきらかな蛍光変化は認められなかった。以上から、当初の計画に沿った実験を行ったところ、記憶の形成時にはカンナビノイドシグナルの活性が認められないことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
自由行動下の10分のイメージング、および5分間の恐怖条件付け学習中のイメージングにおいて、GRABセンサーの感度内での内因性カンナビノイドシグナルの反応は認められなかった。海馬の内因性カンナビノイドシグナルは記憶の消去学習や逆転学習において関与が報告されているため、令和4年度は計画通り、恐怖条件付け後の消去学習中の歯状回苔状細胞に入力する内因性カンナビノイドシグナルをイメージングにより明らかにする。 具体的には、フットショック翌日にすくみ反応を確認の後、3日目以降に異なるチャンバー内で音提示のみでフットショックを与えずに10分間過ごすことを7日間繰り返す。この消去学習で生じるCB1受容体活性の変化を観察する。微小顕微鏡で変化が認められない際は、2光子顕微鏡下で頭部固定マウスに音提示をすることで記憶の消去学習中のCB1受容体活性を2光子顕微鏡により計測する。またパターン分離課題は苔状細胞が関与している認知機能課題とされているので、パターン分離課題時の歯状回苔状細胞に入力する内因性カンナビノイドシグナルを微小顕微鏡を用いたイメージングにより明らかにする。 並行して苔状細胞特異的cre組み換え酵素発現マウスを用い、レンチウイルスベクターの歯状回注入によりノックダウン用siRNAを苔状細胞特異的に発現させることで苔状細胞選択的CB1受容体ノックダウンマウスを作成する。
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