研究実績の概要 |
急性・亜急性発症の認知障害、精神症状、痙攣発作は、自己免疫性脳炎である可能性があり、速やかな診断に基づく早期の免疫治療を要する。疾患マーカーとなる自己抗体の検出が診断に有用ながら、多数の抗体が報告されており、多くの抗体検査が必要になる。そのため、複数の抗体を効率よく網羅的に検出するシステムの構築を行っている。現時点で、主要な11種類の抗体(N-methyl-D-aspartate receptor (NMDAR) 、α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic receptor (AMPAR), γ-aminobutyric acid type B/A receptor (GABAB/AR), leucine-rich glioma inactivated 1 (LGI1), contactine-associated protein-like 2 (CASPR2), glycine receptor (GlyR)、myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG), aquaporin 4 (AQP4), metabotropic glutamate receptor 5 ( mGluR5), GluK2)に対応した各抗原の安定発現細胞株を作製した。全国から、診断のために送付される血清・髄液検体について、抗体検出を実施している。これまで約450検体について抗体検査を行なった結果、抗NMDAR抗体の検出が最も高頻度であり、少数例ながら、認知症やてんかんを疑われた症例の中に、LGI1、AMPAR、GABABR、GlyR抗体を伴う例を明らかにした。速やかな抗体検査により、これまで原因不明であった認知症、発作性疾患の早期診断が可能になり、それに基づく早期治療がなされ、症状の遷延、不可逆状態への進展を防ぐ役割を担っている。今後は、多数例の集積結果をもとに、診断および治療のアルゴリズムを作成する予定である。また、NMDAR抗体については、その病因的意義を明らかにする目的で、マウスの脳室内に患者由来の抗体を投与し、マウスの行動解析を行ったところ、抗体投与マウスでは空間認知機能の低下を生じることを確認している。その他のシナプス関連抗体についての疾患病態への関与については今後順次解析を進める準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに自己免疫性脳炎との関連が報告された、診断に有用なシナプス関連自己抗体を検出する11種類(NMDAR 、AMPAR, GABABR,GABAAR, LGI1, CASPR2, GlyR、MOG, AQP4, mGluR5, GluK2)の安定発現細胞株を樹立した。日々、全国諸施設から原因不明の認知症、てんかん、精神疾患患者の検体が診断目的に送付されてきており、各細胞株に対する抗体検査を行っている。これらの結果は速やかに臨床サイドにフィードバックを行い、早期治療の導入に成功している。この中では、抗NMDAR抗体の検出が最も多く、次いで、抗MOG抗体、抗LGI1抗体、抗GABABR抗体が複数例で検出され、抗GlyR抗体、抗AMPAR抗体は各1例で検出された。抗NMDAR抗体陽性例は認知機能低下・感情障害などが数年にわたって遷延する傾向がある。また、高齢者に緩徐な認知機能低下を生じ、当初は変性疾患としての認知症と診断されていた例の中に、抗LGI1抗体陽性例が混じており、免疫療法が奏功した症例もあり、自己抗体診断の必要性が認知されるようになってきた。
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