研究実績の概要 |
本研究では、双極性障害(BD)、統合失調症(SCZ)、自閉スペクトラム症(ASD)の3疾患を対象に、ゲノムコピー数バリアント(CNV)の関与について検討した。神経発達症(NDD)と関連するCNV(NDD-CNV)として、文献やデータベースから307領域を抽出した。このゲノム領域に存在するpathogenic/likely pathogenicと判断されるCNVを抽出して、各疾患との関連性を評価した。本研究では、全サンプル8708例[BD患者1818例、SCZ患者3014例、ASD患者1205例および健常者2671例(CONT)を含む]において頻度1%以下で検出された稀なCNVを用いた。その結果、NDD-CNVは、BD, SCZ, ASD, CONTにおいて4.6%, 6.9%, 6.7%, 1.8%の頻度で認められ、3疾患いずれにおいても発症リスクと有意な関連を示した (P値 < 1 × 10-4)。
次に、ノンコーディング領域、すなわち、タンパク質をコードする遺伝子を含まないゲノム領域のCNVが各疾患の病因に関与するかどうか検討を行った。遺伝子発現調節領域であるエンハンサー領域およびプロモーター領域に着目し、患者CNVがこれらの領域に集積するか統計学的に検討した。まず、Psych ENCODEなどのデータベースから、脳組織におけるエンハンサー領域およびプロモーター領域の遺伝子発現調節領域を抽出し、CNVと調節領域の重複塩基長を計算した。この重複塩基長と各精神疾患との関連を、ロジスティック回帰モデルを用いて評価した結果、10種類の脳領域(前尾状回、帯状回など)における調節領域がSCZとASDと有意に関連することを見出した。以上の結果から、脳組織で活性をもつ遺伝子発現制御領域のCNVも精神疾患発症に寄与する可能性が示唆された。
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