研究実績の概要 |
膵癌の診断において,限局性自己免疫膵炎との鑑別は重要である.拡散強調画像(DWI) は,水分子の自由拡散運動の状態を断層画像化するMRIの撮像法の一つで,生体内では非造影で腫瘍部と正常部の高いコントラストが得られ,組織の水分子の拡散の程度の指標として拡散係数(apparent diffusion coefficient; ADC)が得られる.水分子の自由拡散運動が制限される程,DWIでは高信号を呈し,ADC値は低くなる.我々は病変から複数のADC値(ADCmean, ADCmax, ADCmin)を抽出し,膵癌と限局性自己免疫膵炎の鑑別においてADCmaxが有用であることを示した. さらに膵癌の早期診断に有効な非造影MRI撮像法であるT1強調像(T1WI),拡散強調画像(DWI)及びMR胆管膵管撮影(MRCP)の組みあわせについて検証した.T1WIでは,正常膵が腺房細胞内の高タンパク含有水の影響で高信号になるのに対し,病変部では低信号となる.慢性膵炎や萎縮が背景にある病変は、膵全体が元々低信号を呈するため病変の検出が困難である.DWIでは水分子の拡散が低下した膵癌組織で高信号となるが,空間分解能が低く,小型病変を検出できない場合がある.MRCPでは膵癌の存在に伴う膵管像の変化をとらえている.主膵管に影響を与えない病変や膵尾部の微小病変の検出は困難である.これらの非造影MRIシーケンスはそれぞれ利点,欠点があり,その特徴を最大限に生かすようなシーケンスの組みあわせをする工夫が,小型膵癌の検出においては求められおり,我々はBoolean algebraに基づく論理演算子「倫理和,OR」を利用し, T1WI,DWI,MRCPのorによる組み合わせが最も高い診断能を示すことを確認した.
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