研究実績の概要 |
昨年度までの研究で包括的心臓CTから得られたデータを基にしたシミュレーションの基盤を開発できたため、今年度ではシミュレーションにより、冠動脈プラークの進行に関する研究を行った。糖尿病は冠動脈疾患における重要な危険因子であり、動脈硬化の進行に注意する必要がある。糖尿病教育入院となった患者61名を対象とし、2年間隔で2回冠動脈CTを撮影し、シミュレーションで得られたパラメータとプラーク進行の有無に関して観察研究を行った(Tomizawa et al. Radiol Cardiothorac Imaging 2023;5(4): e230016)。その結果、乱流の指標である渦度が高い病変ほど病変が進行することが判明した (進行群 984 sec-1; IQR: 730-1253 vs 非進行群 443 sec-1; IQR: 295-602; P < .001) 。この研究の特筆すべき点は進行の定義として、プラークの大きさではなく、機能的狭窄に焦点を当てたことである。虚血性心疾患の治療において、冠動脈の形態的狭窄ではなく、機能的な虚血に基づいて血行再建の必要性を判断することが近年は推奨されている。従って、機能的な虚血進行の因子を事前に突き止めることで、進行を阻止するために特に薬物治療を強化しなければならない群を抽出できるようになる。また、従来はhigh-risk plaqueと言われている特徴を有するプラークが進行する危険因子として知られていたが、本研究で使用した渦度の方が診断精度が良好であったことも注目すべき結果である(AUC 0.91; 95% CI: 0.84, 0.97 vs 0.69; 95% CI: 0.56, 0.82; P < .01)。本研究の結果から、虚血性心疾患の危険因子層別化の精度が上昇し、心疾患の進行予防に資すると考える。
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