現在の重粒子線治療施設では高エネルギーに加速された12Cイオンビームのみが治療に使用されているが、4Heや16O、20Neなど複数の核種を併用したマルチイオン照射を行うことで、再発リスクの高い難治性がんの臨床成績向上が期待できるとして研究が進められている。治療装置としてマルチイオン照射を安全に運用するためには、照射中に頻繁に切り替えられるビーム核種に対して、治療計画通りの正しい核種が照射されているか、また、ビームの純度が許容値を満たしているかを保証する監視システムを設ける必要がある。本研究では、入射イオン価数に対して応答が異なる2つの検出器(電離箱とファラデーカップ)を用いた新しいビーム純度測定方法を提案し、その提案方法を用いた監視システムがマルチイオン治療装置として求められる検出性能を実現可能かの実験的検証を行った。 研究初年度では、マルチイオン治療で使用されるビーム条件をもとに設計したファラデーカップを製作し、ビーム実験にて増幅回路との組合せによる応答性検証を行った。研究2年目では、ファラデーカップの信号改善のためにシールドシース部の改造を行い、新たに設計製作した電離箱と組み合わせてビーム純度監視システムを構築した。不純物イオンを混ぜたコンタミビームを用いた試験にて、目標となる純度99.9%の4Heビームの識別性能を確認した。 最終年度となる研究3年目には、前年度に試験したビーム純度監視システムを高エネルギービーム輸送ラインの途中にあるビームダンプ部に導入し、シンクロトロンで加速されたビームを検出器に当てることで、ビームの健全性を照射前に確認できる機構とし、検出信号を取り込みビーム純度を判定する制御システムを構築した。そして、ビーム核種の切り替え間違いや不純物の多いコンタミビームが検出された際には、照射前にインターロックを作動させられることが確認できた。
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