研究課題
アミロイドPET陽性は、アルツハイマー病(AD)の診断の前提条件である。日常臨床でアルツハイマー病と診断される症例のうち、約30%にアミロイドPET陰性例が含まれると報告されており、アミロイドPETはAD診断に大きな影響を与えることが分かっている。しかし、ADが疑われるすべての患者にアミロイドPETを実施することはできず、アミロイド陽性を予測する他のバイオマーカーが必要とされる。本年度は、このバイオマーカーとして、構造的T1強調MRIに着目した。(方法)臨床的にADの可能性があると診断された患者のうち、脳血流SPECTでADに特徴的なパターンを示さなかった23名(男性15名、女性8名、年齢71.5+8.7歳、MMSEスコア24 .9+3.7 )を対象とした。 全員に3DT1強調画像を含むMRIと11C-PiBによるアミロイドPETを実施した。アミロイド蓄積はCentiloid Scale (CL)を用いて定量化した。3DT1強調画像から灰白質を抽出し、個人レベルの脳内ネットワーク解析をグラフ理論に基づいて行い、脳内ネットワークのハブ領域を表すbetweenness centrality画像とCLとの相関を求めた。共変量は、グラフ解析に使用したノード数、MRIから得た脳年齢とした。(結果)23人中11人が、視覚的解釈によりアミロイドPET所見が陽性であった。全体のCLは30.2+38.8であった。CLとbetweenness centralityの相関は、楔前部でZスコア3.17 (p<0.001) と有意な逆相関を示した。(結論)ADの可能性のある患者において、構造ネットワークのMRI解析により、アミロイド蓄積の程度を推定することができた。アミロイドの早期蓄積を伴う楔前部のハブ領域としてのネットワーク異常は、ADに特徴的な所見といえる。
2: おおむね順調に進展している
3DT1強調画像を用いたグラフ理論に基づく個人レベルでの脳構造ネットワーク解析によるアルツハイマー病の超早期診断に関する研究において、昨年度は人間ドック受診者におけるMRIのネットワーク解析から認知症予防につながる生活習慣因子を解析した。構造ネットワーク指数の中でも脳の情報伝達効率を最も忠実に反映するスモールワールド性に注目した。スモールワールド性は認知機能検査スケールとの正相関がみられ、アルツハイマー病の早期診断にも有用性が確認された。また、このスモールワールド性に最も大きく影響したのは、MRIから推定した脳年齢であった。アルツハイマー病の最大の危険因子は加齢であり、暦年齢よりも脳年齢がよりスモールワールド性に影響することを発見したことは、認知症予防に大きな意義がある。さらに今年度はアルツハイマー病が疑われる患者においてセンチロイドスケールで定量化されたアミロイド蓄積と構造ネットワークとの関連を検討した。その結果、アミロイド蓄積が楔前部における媒介中心性の低下に有意の影響を与えることが判明した。高い媒介中心性を持つノードはグラフ理論においてハブ領域となる。アルツハイマー病において最も早期にアミロイドが沈着する領域である楔前部のハブ領域としての機能がアミロイド沈着の増加に伴い低下することが明らかとなった。このような所見は、今までは安静時機能結合MRIを用いて得られていたが、日常臨床で一般的に撮像される3DT1強調画像の解析で得られたことは臨床的に意義深いものである。安静時機能結合MRIは10分程度の撮像時間を有し、さらに眠気などの生理的因子や服用している薬剤にその解析結果が影響される。一方で、3DT1強調画像による構造ネットワーク解析は生理的因子や薬剤に影響されずロバストな結果を提供できるため、臨床応用に適している。
現在、アミロイドPETとして11C-PiBおよび18F-NAV4694、タウPETとして18F-MK6240を用いてアルツハイマー型認知症疑いの患者に対してPET撮像を引き続き行っている。また、同時にMRIによる構造ネットワーク解析を行い、スモールワールド性を含めた全脳のネットワーク解析に加えBetweenness Centrality, Degree, Clustering Coefficient, Characteristic Path Lengthの個々のネットワークパラメータ画像を引き続き作製している。すでにこれらのネットワークパラメータ画像の1000例以上の健常者からなる正常データベースを作成しており、このデータベースと比較することにより個々の患者でのネットワーク異常を検出していくことができる。さらにネットワーク解析のために、脳におけるアミロイド蓄積の定量化のために、センチロイドスケールを自動的に算出するソフトウェアを開発し、種々のアミロイドPETトレーサに応用している。また、タウ蓄積を定量化する必要があり、センチロイドスケールに準じた定量法を開発する必要がある。このタウ蓄積の定量化は未だ確立した方法は報告されていない。アルツハイマー病におけるタウ蓄積は嗅内皮質に始まり、アルツハイマー病の進行にともない側頭葉から頭頂葉などの新皮質に進展していく。このことからタウ蓄積の定量には量的観点に加え空間的観点も考慮する必要がある。現時点では、タウPETに位置登録された3DT1強調画像をFreeSurferで解析し、このFreeSurferの関心領域をPETに応用することにより定量化を進めている。また、タウPETにおいてもアミロイドPETのごとくセンチロイドスケールが提唱されつつあり、本研究でも応用していく予定である。
アルツハイマー型認知症疑い患者におけるアミロイドおよびタウPETならびに構造ネットワーク研究において、新規PETリガンドを合成し、PET薬剤委員会や倫理委員会での承認手続きなど臨床研究に供するまでの準備期間が必要であった。本格的にPETとMRIによる臨床研究が継続されており、院内サイクロトロンを用いたPET薬剤などの消耗品および解析業務を含めた研究費用が次年度にも発生することとなる。さらに、成果を発表するための論文投稿料も発生する。
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