研究実績の概要 |
前年度にそれぞれ、当施設で行える両手法の正確性の確認と後者の信号強度に影響を与える要因を考慮した最適化した撮像条件を確立し、今年度前半は主に、両手法の組み合わせを装置メーカとともに開発に時間を要した。両手法を組み合わせた1つの方法としてのUTE-CES法のプロトタイプを今年度10月に確立し臨床装置へ実装することに成功し、その後CEST信号を見ながら手法の修正、最適化を行った。一方、量子研との共同研究を通し、高磁場(7T)の研究用MRI装置でのCEST法確立にも着手し、手法の実装と撮像条件の最適化を行った。これは、臨床データのgold standardのデータを取り、理論の確認、臨床データのより良い解釈のために重要となる。これら臨床装置、研究用装置双方でのCEST法・UTE-CEST法を実装およびある一定程度での信頼できるデータを取得できたことから、グルタメート、クレアチン、グルコースのCEST信号に与える要因を各々3.5 ppm, 3 ppm, 2 ppmおよび1.2 ppmのchemical shiftを示す分子内の1Hを持つ物質のT1, pHを調製した水溶液ファントムで定量することに成功した。UTE-CEST法でも、生体内で水のピークから各々3.5 ppm, 3 ppm, 2 ppmおよび1.2 ppmのchemical shiftを示す分子内の1Hを持つ物質(nicotinamide, glutamate, creatine, glucose)の信号の取得が可能となった。CEST法では、preparation pulseの印加時間、強度を変化させ撮像しMTR asymmetryによりCEST信号を定量評価した。これらの結果から、臨床へのデータ取得が可能であると推察できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CEST法で観察できる内因性の代謝物は、分子量の比較的小さな可動性分子のうち-CONH, -NH2, -OHなどの側鎖をもつ代謝物であり、組織内のタンパク質・ペプチド、神経伝達物質のグルタメート、クレアチンやグルコースなどの定量が報告されている。代謝物上のプロトン(1H)はMRI信号として通常観察できないが、観察可能な自由水の1Hとの間で化学交換 (置き換え)を生じるためCEST法では間接的に観察される。 順天堂大学では、当初CEST法が稼働するMRI装置がなかったが、これまで主に技術開発を行うことにより、CEST法が2つのメーカー(シーメンス、キヤノン)の臨床装置での可動が可能に、また最適化も進行した。これらのことから、上記のタンパク質・ペプチド、神経伝達物質のグルタメート、クレアチンやグルコースなどのCEST信号の取得に成功し、組織内の代謝物濃度を測定する技術的環境が整った。また、より精度の高い高磁場装置を持つ量子研との共同研究を確立することができたことから、臨床データの確認作業・条件設定など可能となり、より正確なデータをに裏付けされた研究成果が得られる。
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