研究課題/領域番号 |
21K07608
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
寅松 千枝 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 先進核医学基盤研究部, 主任研究員 (90421825)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 動態解析 / PET / 洗い出し / 粒子線治療 / MRI |
研究実績の概要 |
粒子線治療のin-vivo検証法として、陽電子放出核断層撮像法(PET)が用いられてきたが、これは、照射した粒子線と体内の物質との反応により発生する陽電子放出核種をPETで撮像するという原理である。ここで、発生した陽電子放出核種は、生体内における代謝により拡散するため、この"洗い出し効果″をモデル化し、補正する必要がある。 本研究では、これまで、主に発生する陽電子放出核である11Cと15Oという不安定核ビーム(RIビーム)そのものによる小動物照射実験を行ってきた。核医学分野で臨床に用いられるシングル-コンパートメントモデルを仮定し、発生した陽電子放出核種の生体内での動態解析を行うことで、それらの洗い出し速度を導出した。そして、前年度までに、照射領域の血行状態により、洗い出し速度が変化するという傾向を捉えることに成功していた。 ここで腫瘍の血行動態は放射線治療による効果や予後を検討する情報となり、造影CTや造影MRを用いて診断されることがある。当該年度は、治療ビームである12Cを様々な血行状態にある腫瘍に照射した場合に発生する陽電子放出核種のDynamic PET測定と、静脈投与した造影剤をDynamic Contrast Enhanced MRI(DCE-MRI)による測定を行い、それぞれの体内での動態を比較した。Dynamic PET測定とDCE-MRIによる実験の結果、両者は相関性を示すことが分かった。 これまでの小動物実験の結果を踏まえて、今後は臨床応用へ向けた研究のフェーズに移行できる準備が整った。その一方で、発生した陽電子放出核種の生体内での化学形の同定を目指すため、小動物照射実験による基礎データ収集は継続して行っていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに得られた実験データを、理論的に裏付ける実験段階に進めることができた。治療ビームの照射により生体内で発生する陽電子放出核種をPETで捉え、ダイナミックPET解析を行うことで、腫瘍内の血行状態を示す情報が得られることが分かった。これにより、粒子線治療の治療効果や予後予測を行える可能性を示すことができた。 当該年度に行った研究結果は、年度内中に医学物理学会において報告を済ませた。さらに、投稿論文として取りまとめ、サブミットすることができた。 これらのことから、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果を踏まえ、臨床応用を目指すフェーズに入る。まず、粒子線治療室内に、ヒトサイズの開放型PETを搬入し、臨床機としてのコミッショニングを行う。そして、臨床医や臨床スタッフと協力し、臨床研究を行うためのワークフロー、プロトコールを整える。 倫理審査の承認を取得後に、臨床研究を開始する。CTやMRIによる診断情報と、PET測定により得られるデータを比較し、照射により発生する陽電子放出核種の患者体内での動態と、治療効果・予後との関連を検討するためのデータを収集していく。 また、これまでの小動物実験の結果を踏まえて、今後は臨床応用へ向けた研究のフェーズに移行できる準備が整った。その一方で、発生した陽電子放出核種の生体内での化学形の同定を目指すため、小動物照射実験による基礎データ収集は継続して行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までに開発した装置を整備したところ再利用できたため、それにかかわる実験費用が必要なくなった。 現地参加を予定していた国際学会(The 60th Annual Conference of the Particle Therapy Co-Operative Groupと、The 2nd Annual Conference of the Asia-Oceania Particle Therapy Co-Operative Group)がハイブリット開催であったため、ウェブ参加に切り替えたところ、それに付随する経費が減少した。 次年度から本研究は臨床研究に進むため、生じた次年度使用額は、臨床データの解析費(ワークステーション、保存媒体、解析ソフトウェアの購入等)としての使用計画を立てている。
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