研究課題
粒子線治療ビームが引き起こす原子核破砕反応により、体内で発生する陽電子放出核種(生成陽電子放出核種)は、生成陽電子放出核種は主に血流によって代謝(生物学的洗い出し)されるため、その洗い出し速度は腫瘍の血行動態を示していると考えられる。本研究では、洗い出し速度自体が腫瘍血行動態のバイオマーカとなるという仮説を立て、動物実験による実証を進めてきた。前年度までに、血行動態の異なる腫瘍ラットモデルに対する重粒子線照射実験を行ってきたが、その結果、生物学的洗い出し速度は、増殖中の腫瘍では速まり、壊死を起こして低酸素状態となった腫瘍では遅くなることが示された。実際の腫瘍内の細胞活性領域は均一ではなく、血管新生領域、低酸素領域、壊死状態の領域などの組織的構造もつ。本年度は、腫瘍内の構造に対応した生物学的洗い出し速度の分布を捉える事を目的とし、高感度PET装置を用いて重粒子線治療ビーム(12C)のラット照射実験を行った。まず担癌ラットモデルに対し、MRアンギオグラフィ(MRA)により腫瘍内部の血行動態を確認した。そして、QSTのHIMAC生物照射室にて12Cビーム照射し、高感度の小動物用PET (total body small-animal PET:TBS-PET)にて生成陽電子放出核種のPET撮像を行った。その結果、照射領域である腫瘍内において、不均質な放射能強度分布が得られ、PET画像上における放射能強度の高い領域とMRA画像上の壊死領域と一致が見られた。放射能強度の高い領域は、血管が行き渡っていないために血流による代謝が遅くなっていると考えられる。また、放射能強度の低い領域は増殖の盛んな領域の特徴である血管透過性高進のため、洗い出し速度が比較的早いと考えられる。今回、腫瘍内の放射能強度と血行動態との相関を示唆する結果が得られた。今後、実験の再現性を確認する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 7件、 招待講演 3件)
Physics in Medicine and Biology
巻: 68 ページ: 195005~195005
10.1088/1361-6560/acf438