脳腫瘍に対する化学療法併用放射線治療による高次脳機能障害の解析において、化学療法単独においても、脳腫瘍の治療に限らずさまざまな認知障害が報告されている。また放射線による脳腫瘍治療においては、原発巣および浸潤領域の線量によっては、再発や放射線脳壊死が報告されている。膠芽腫の放射線治療とテモゾロミド化学療法併用による生存期間はわずかながら増加しているもののテモゾロミドは、ヒトの注意力、作業記憶、および処理速度を低下させる。また海馬内の神経発生を減少させ、学習プロセスの選択的欠損を生じさせことが報告されている。さらに分割線量が2Gy以上の場合、白質病猿や認知機能の大幅な低下があり、高齢女性においては、記憶に重要な海馬領域の合計被ばく線量が19Gy以上の場合、放射線誘発性の海馬血管透過性の亢進と認知機能低下の相関性が認められるようになっている。 我々は、海馬における放射線誘発性の血管透過性の亢進生じさせる線量を照射した場合、海馬神経細胞数の低下には毛細血管密度の低下が関与していることを明らかにした。またこのことは脳および海馬内においても放射線に脆弱な部位があることが推察される至った。放射線による記憶に重要な海馬の脆弱性を調べるため、HPLC(液体クロマトグラフィー)による種々のアミノ酸の一斉分析を試みたところ、興奮性アミノ酸(グルタミン酸)の線量依存的な増加、抑制性アミノ酸(GABA)の低下を明らかにし、令和4年度第2回日本量子医科学会シンポジウム講演において、炭素線脳局所照射による認知機能障害と遅発性脳壊死との関連性について発表し、国際会議International conference on radiation applications(Attica/Greece)において、炭素線照射に伴う放射線障害と種々のアミノ酸との関連性を発表し、特別号となる学会誌に掲載された。
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