研究課題
前立腺がん(PC)は、欧米における男性のがん死亡原因の第一位であり本邦においても有病率が増加している。直腸診や血清中の前立腺特異抗原(PSA)などの標準的な診断スクリーニングでは、早期病変の発見においての感度は低く、またCT、MRIなど形態画像診断にも転移病変の検出などに限界があることが報告されている。病期分類の精度を改善し、前立腺がん患者のリスク層別化を行うためには、さらなるツールが必要とされている。核医学検査に代表される分子イメージング技術は、非侵襲的かつ定量的なアプローチが可能であり、従来法では困難であった全身がん病変マップの作成が可能で生検部位決定や病期分類に有用である。現在、いくつかのPET薬剤がPC検出のために臨床で研究されている。18F-FDGはブドウ糖代謝を評価して悪性病変を同定する広く用いられている方法であるが、PCにおいてはブドウ糖代謝が低いものが多く診断能に限界がある。本研究は、前立腺がんに対する治療対象となった患者において、89Zr-PMSA PET/CT検査法の確立とその臨床的意義と有用性を検証する研究である。当施設は89Zrを用いた研究用PETトレーサーが合成可能で、かつ前立腺がん診療における十分な経験を持つ。本研究により、89Zr-PMSA 集積の有無が生検による結果と強い相関が得られれば、非侵襲的な高精度の前立腺がん転移病変検出法として利用できる。さらに同一個人でも病変によって集積程度に差があれば生検の結果を補完する検査法となりうる。すなわち生検偽陰性の可能性、生検陽性でもPETで大部分の病変が陰性であれば効果が悪い可能性、病変によって薬剤への反応性が異なる可能性などより治療の個別化に貢献できる。またあらかじめ治療効果が不良と予想される患者を識別する方法が確立されれば大幅な医療費の削減など医療経済効果も期待できる。