研究課題/領域番号 |
21K07636
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター) |
研究代表者 |
野口 智幸 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター), その他部局等, 放射線部長 (40380448)
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研究分担者 |
松下 由実 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 臨床研究センター, 臨床研究統括部 室長 (50450599)
志多 由孝 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, センター病院, 放射線診療部門・放射線管理室医長 (50774668)
山下 孝二 独立行政法人国立病院機構九州医療センター(臨床研究センター), その他部局等, 放射線科医長 (80546565)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 深層学習 / 人工知能 / 医用画像 / 画像診断 / 虫垂炎 |
研究実績の概要 |
人間が行う「知的判断」を、コンピュータが行うAI技術が注目を集めて久しい。特に、自律的に学習・判断を行う「深層学習型AI」は、画像判定について飛躍的な発展を遂げている。その反面、AIによる判定プロセスは「ブラックボックス」とされ、AIの基礎知見について体系的に研究・検証されないまま、AI実装システムの製品化が先行している。こうした実用先行型開発は、間違った判定によるシステムエラーに対し脆弱である。このリスクを避けるためにはAI判定プロセスを理解する基盤的研究が不可欠であると考えている。本基礎研究では①医用画像など医療情報の収集・選別・調整等を行う学習データキュレーションの研究、②AI-CADについて客観的かつ効率的に実施可能な性能適正検証法の研究、③AI-CAD開発技術者との共同研究を仲介しつつ、医療側の立場からAI-CAD開発を支援できる医療系AIジェネラリスト従事者の育成、を推進する。具体的には①学習データキュレーション研究として、我々は、学習データに潜在する不整合データを取り除く方法として、最大98%の不整合データ除去するREDAKTO(リダクト)法を考案した。REDAKTO法がビッグデータでの品質向上に通用するか更に研究を推し進める。②AI-CAD性能の適正な検証法研究として、我々は、10分割交差検定法に統計学的手法を取り入れ、時間コストを低減しつつ検証精度を担保するG-Epoc法を考案した。さらなる高度の検証精度を達成できるようG-Epoc法をブラッシュアップする。③医療系AIジェネラリストの育成として、AI-CAD開発に係る課題すなわち(1) 導入すべき医療領域の優先順位、(2) 資金量や設備、 (3) 開発メンバー構成と役割、(4) 開発手順や導入手法、(5)リスク管理、について理解し、具体的な施策を講ずる知見を広める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究での初年度の成果として①医用画像など医療情報の収集・選別・調整等を行う学習データキュレーションの研究 の分野での発展が得られた。すなわち、深層学習や他の機械学習プログラムを用いたコンピュータ支援画像診断システム開発において、開発に用いられる学習用画像データの品質保証は必須の課題である。すなわち学習データに潜在する不整合データはできるだけ取り除くことが要求される。その方法として、最大98%の不整合データ除去するREDAKTO(リダクト)法を考案した。REDAKTO法はK分割交差検定法(K-CV)を応用したデータ処理で、K-CVでの「不正解」と判定されたデータを取り除くことによってエラーデータを除去する方法である。REDAKTO法の特性を解析するとエラー率が低い大きなデータセットでより高率にエラーデータが抽出できるメリットがあることが分かった。また副次的な成果として、虫垂炎あり/なしCT画像での深層学習プログラムでの判定精度は、500ペア1000画像で87%、20,000ペア40,000画像で98%の精度を示し、その関係性から精度向上には指数関数的に画像データ数の増加を要することが明らかになった。これについて、日本医学放射線学会2021年総会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
AI画像診断支援システムの製品化が、研究開始当初の我々の予想よりはるかに高速に導入されつつある。具体的には、胸部単純X線写真での結節検出や、胸部CTでの結節検出、MRアンギオグラフィでの脳動脈瘤検出等はすでに医療機器として市販されている。こうした状況下では、放射線科医の役割として、どのような機能を有するAI実装システムを優先的に臨床現場へ導入すべきか、AI画像診断支援システムが導入された場合、画像診断の改善がどの程度得られるのか、あるいは導入後の費用対効果の検討等、エヴィデンスに基づくアドバイスが必要である。 そこで我々は、AI画像診断支援システム導入前での「見落とし診断」の現状を検証する方法を発案した。すなわち、画像診断レポートを「見落とし」に関連する用語検索で抽出し、その頻度を検討した。その結果、胸部CTでの結節見落としが全体の23%を占めることが明らかになった。従って、「胸部CTでの結節検出AI支援システム」を優先的に導入することが望ましいことが明らかになった。また本法は比較的簡易に実施可能であることから他施設でも実践できまた、AI支援システム導入後にどの程度の改善が得られるか検証を行うことも可能である。これについて、今後学会発表予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の中、学会出張での発表を控える必要が生じた。このため、公式発表として論文投稿を先行し、学会出張を後回しにすべく方策を変更した。従って、出張経費等を次年度に繰り越した。
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