2023年度は放射線による腫瘍内細胞死(アポトーシス(Apo))への免疫機構関与について研究を実施した。また、Apo可視化システムによる発光機序に関して、EPR効果による発光増強への関与が疑われたため、これによる発光機序への影響を定量的に評価した。X線誘発腫瘍内Apoへの免疫機構関与に関しては、TおよびBリンパ球細胞の欠損およびNK細胞の活性低下が認められる免疫不全NOD/scidマウスにApo可視化細胞を移植し実験を行った。腫瘍形成後、X線を照射し腫瘍からの発光量を経時的に測定した。その結果,照射群は非照射群と比較し腫瘍からの発光量が有意に増加した。X線照射後早期に誘発する腫瘍内Apoに免疫機構の関与は少ないことが示された。 EPR効果による発光増強への関与に関しては、Apoとは無関係に発光するルシフェラーゼ発現細胞をマウスに移植し、形成した腫瘍を用いて経時的にEPR効果による発光率を評価した。EPR効果による発光率は,(各照射後時間でのルシフェリン投与前の発光値)/(各照射後時間でのルシフェリン投与後の発光値)により算出した。その結果、EPR効果による発光率は最大でもルシフェリン投与後の発光量に対し10%程度とその発光の影響は低く,照射後の腫瘍内Apo誘発の指標である相対発光値に影響を及ぼす程の発光量ではないことが判明した。つまり構築したApo可視化システムから得られる放射線による発光増加量は、腫瘍内で誘発するApo細胞数を反映していると考えられる。上記結果と昨年度までに得られた実験結果を併せて考察すると、X線照射による腫瘍内Apoは,Apo遺伝子型により決定されるばかりでなく、がん組織を構成する腫瘍血管の放射線損傷によるがん細胞への栄養供給の低下(照射後の腫瘍内微小環境の変化)も細胞致死効果を決定する大きな要因の一つであると考えられた。
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