研究課題/領域番号 |
21K07660
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
大島 康宏 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主幹研究員 (00588676)
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研究分担者 |
坂下 哲哉 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 上席研究員 (30311377)
横田 裕一郎 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主幹研究員 (30391288) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | α線 / RI内用療法 / [211At]MABG / Otub1 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
研究代表者らはα核種を用いた標的アイソトープ治療薬のひとつである211At標識メタアスタトベンジルグアニジン([211At]MABG)の強力な抗腫瘍効果を実証し、悪性褐色細胞腫治療薬としての有効性を明らかにした。加えて、[211At]MABG処置後に特異的に高発現する遺伝子として新たにOtub1を特定し、α核種を利用した標的アイソトープ治療における新奇細胞応答の可能性を見出した。しかし、[211At]MABG特異的に発現誘導されたOtub1の具体的な寄与は未だ不明である。そこで、本研究ではα核種を利用した標的アイソトープ治療におけるOtub1の新奇バイオマーカーとして可能性を明らかにすることを目的とし、[211At]MABG治療におけるOtub1発現誘導の分子生物学的役割を追究することとした。 2022年度は[211At]MABGの細胞障害効果に対するOtub1発現抑制の影響について検討した。2021年度までに確立したOtub1発現抑制法を利用し、Otub1特異的siRNAを導入したPC-12細胞に対して[211At]MABGを処置した結果、[211At]MABGによるOtub1発現誘導は顕著に抑制された。また、[211At]MABGによる細胞障害効果は、コントロールに比べOtub1特異的siRNAを導入したPC-12細胞において有意に低下した。以上の結果より、Otub1は[211At]MABG治療において、細胞障害効果誘導に寄与することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の目標とした「[211At]MABGの細胞障害効果に対するOtub1発現抑制の影響」について検討を進め、[211At]MABG治療におけるOtub1の寄与について明らかにできたことから、研究計画は予定通りに進んでいる。具体的な現在までの進捗状況は以下の通りである。 [211At]MABG治療におけるOtub1の役割を解明するため、Otub1特異的siRNAを電気穿孔法にて導入したPC-12細胞に対して、[211At]MABGを処置した。その結果、[211At]MABGによるOtub1発現誘導は顕著に抑制され、更に[211At]MABGによる細胞障害効果はコントロールに比べて有意に低下した(P<0.001)。一方、電気穿孔法のみを処置したPC-12細胞及び陰性対照siRNAを電気穿孔法にて導入したPC-12細胞では、[211At]MABGによるOtub1発現誘導への影響は無く、[211At]MABGによる細胞障害効果の低下も認められなかった。同じ手法にて実験を繰り返した結果、同様な結果が得られたことから、再現性のある結果であることを確認した。以上より、Otub1は[211At]MABG治療において抗腫瘍効果発現に関わる遺伝子であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、2023年度は[211At]MABGの細胞障害効果に対するOtub1依存的な細胞内シグナル応答解析を進める。Otub1が細胞障害効果に寄与する場合、p53の安定化やMDMXを介した細胞死誘導、DNA二重鎖切断部位のユビキチン化阻害によるDNA修復阻害、mTORシグナル伝達阻害等が報告されていることから、p53、MDMX、DNA修復、mTORシグナルに着目する。具体的には、Control、電気穿孔法のみ、陰性対照siRNA及びOtub1選択的siRNAを処置したPC-12細胞に対して[211At]MABGを処置し、一定時間経過後に遺伝子発現解析法やタンパク質発現解析法を利用して、着目するタンパク質の発現変動やリン酸化を解析する。また、細胞免疫染色等を行い、53BP1やBRCA1等、DNA二重鎖切断部位に集積し、DNA修復に関わるタンパク質の変化を検討する。これらの検討から[211At]MABG治療において、Otub1がどのように細胞障害効果に関わっているかを明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、研究費申請額に比べ研究費交付額が減額されたため、必要消耗品への予算配分を考慮した結果、購入予定としていた設備備品等の購入を断念した点が挙げられる。また、2022年度の研究計画実施に実施に当たり、Otub1の細胞障害効果に対する影響の再現性を確認することを優先し、当初予定していたDNA二重鎖切断及び細胞周期等の検討までは実施できなかったことが挙げられる。 本研究計画の達成に向け、2023年度以降は[211At]MABG合成用試薬やOtub1発現抑制のためのsiRNA、遺伝子発現解析やタンパク質発現解析用試薬等を購入予定である。また、DNA二重鎖切断及び細胞周期等を検討するための試薬も購入予定である。更に、本研究成果については学会発表及び英文誌への投稿を予定しており、その参加費、旅費、雑誌投稿のための英文校閲費、雑誌投稿料に次年度研究費を充当する予定である。
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