研究課題/領域番号 |
21K07661
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
北條 秀博 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 医員 (60638774)
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研究分担者 |
影山 俊一郎 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 医員 (60644979)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 1細胞解析 / 食道癌 / 放射線治療 / PD-L1 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
本研究ではこれまでに得られた計5例の放射線治療対象の食道扁平上皮癌患者から採取した治療前(3例)、治療中~治療後7日以内(4例)、治療後1か月後(2例)の組織検体を用いたSingle cell RNA sequencing Dataに加え、新たに1例から治療前、治療中、治療後7日、治療後1か月のタイムコース検体を追加し、放射線治療中から治療後にかけて腫瘍内で生じる免疫応答を解析した。興味深いことに治療中にはMyeloid cellが優位な免疫環境が構築されており、これは放射線感受性が高いリンパ球が減少し、感受性が低いMyeloid cellが増加することに起因することが原因と考察された。また、我々は放射線治療中から治療直後にかけてMyeloid cellの中にPD-L1, SIRPA, IDO1が強発現する細胞が誘導されていることを確認した。我々はさらに術前化学放射線治療後手術を行った食道扁平上皮癌患者の切除組織を用いて、多重面積染色PhenoCyclerと空間トランスクリプトーム解析VISIUMを行い、scRNA seqで見出した細胞の局在とその機能について考察した。興味深いことに、PD-L1, SIRPA, IDO1強陽性のMyeloid cellは放射線治療後遺残した腫瘍細胞内に局在しており、免疫回避、腫瘍生存に関与していることが示唆される結果であった。さらに我々はMyeloid cell以外にリンパ球分画の動態の解析を進めている。リンパ球分画は治療直後から強く活性化されており、これらを詳細に解析することで放射線治療に併用する免疫治療の最適化モデルを作成していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度科研費、今年度科研費を合わせ、合計6例、15検体で治療前(4例)、治療中~治療後7日以内(6例)、治療後1か月後(3例)の組織検体を用いたSingle cell RNA sequencing Dataを得ている。科研費研究として施行可能な十分な検体、質の高いRNA seq Dataを得ており、現在当院トランスレーショナルインフォマティクス分野山下ユニット長らとデータ解析研究を行っている。さらに術前化学放射線治療後手術を行った過去検体を用いて空間解析にも着手し、質の高い多重免疫染色、トランスクリプトーム解析結果を得ている。これらを組み合わせた解析の結果、放射線治療中に主に活性化されるPD-L1強陽性Myeloid cellの存在、局在が明らかになり、腫瘍の生存への関与が示唆されることから重要な治療ターゲットになりえる可能性を明らかにし、2023年にScience Advance誌に掲載された(Sci Adv. 2023 Dec 15;9(50):eadh9069.)。
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今後の研究の推進方策 |
前述のとおりscRNA seq、VISIUM, PhenoCylcerを用いた放射線治療中、治療後の食道癌組織内の解析を行い、主にMyeloid cellの働きに着目した解析研究を行い、論文掲載されている。現在はさらにリンパ球に着目し、治療中から治療後にかけてAdaptive immune reactionが活性化し、免疫チェックポイント阻害薬標的分子が強く誘導されていることが明らかになっている。今後はこれらの治療標的分子に注目し、インタラクトーム解析、Pathway解析、数理モデル作成による治療最適化モデルの作成などbiologicalな解析に加え、臨床応用につながる解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2024年度では引き続き解析を継続する。現在、wet実験部分は終了し、データ解析を行っている。必要に応じてバイオインフォマティクス解析を委託しつつ解析を進める。また、結果がまとまり、今後学会発表や論文投稿が続くため、これらについての費用として使用する。
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