研究課題/領域番号 |
21K07670
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古川 高子 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (00221557)
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研究分担者 |
清野 泰 福井大学, 高エネルギー医学研究センター, 教授 (50305603)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腫瘍イメージング / CuATSM / NAD代謝 / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
放射性のCuで標識されたCuATSMは、低酸素や代謝の変化による細胞内の過還元状態を反映して固形がんに集積すると考えられ、PET診断や標的アイソトープ治療への利用が期待されている。一方で、CuATSMの集積は、従来の一般的な「低酸素腫瘍」の概念が当てはまらない特徴を示している。 これまで申請者らはCuATSMの集積が細胞質の遊離NAD+/NADH比を反映することを明らかにしてきたが、細胞質の遊離NAD+/NADH比は、細胞のグルコース、アミノ酸、核酸などの代謝に関与している。これらを踏まえ、本研究では、がん細胞の代謝変化やNAD+依存タンパク質の関与に焦点を当て「CuATSMの集積とがんの難治性を結ぶ、広範ながんに共通する機序は何か」との問いに対する答えを追求するとともに、CuATSMの集積が高いがんに対するNAD+依存タンパク質や代謝をターゲットとする薬剤の効果を明らかにしたいと考えている。 2022年度は、前年度に引き続き、主要なNAD+の生合成酵素であるNAMPTの阻害剤である FK866を細胞の培養液に加えて、細胞全体のNAD+およびNADHの濃度、およびNAD+/NADH比への影響と、[64Cu]CuATSMの細胞集積への影響の比較を検討した。FK866の濃度、作用時間などの変化により、NAD+およびNADHの濃度は複雑な変化を示し、また、細胞の種類によってもFK866に対する反応のパターンは異なっており、[64Cu]CuATSMの取込みとNAD+およびNADHの濃度、あるいはNAD+とNADHの比との明瞭な関係は示すことはできなかった。 一方、NADの影響を受けて活性が変化するとされる細胞周期の調整やDNA修復と、腫瘍内の[64Cu]CuATSMの集積の高低には相関があることを示唆する結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
共同実験先の福井大学高エネルギー医学研究センターにおいて、[64Cu]CuATSMをもちいる臨床検査(腫瘍診断)の実施頻度がさがっており、これに伴って[64Cu]を使用する実験のスケジュール調整が難しくなっている。 また、使用しているNAMPT阻害剤の効果が、細胞種や添加時間によって予想外に大きく変化したため、安定した実験条件の設定に時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度では、FK866に加えて、細胞内のNAD+およびNADHの濃度に変化をもたらすと報告されているNADの前駆体となるkynurenineやNADを消費するPARPの阻害剤による細胞内NAD+およびNADHの濃度調節を試み、細胞全体のNAD+およびNADHの濃度、およびNAD+/NADH比と[64Cu]CuATSMの細胞取り込みとの関係を明らかにするとともに、[64Cu]CuATSMの集積により強く影響すると考えられる細胞質でのNAD+/NADH比との関係についても検討する。 また、NADによって活性に影響が表れ、DNA修復に関わるとされているPARP-1の活性の変化と腫瘍内の[64Cu]CuATSMの集積の関係を調べ、[64Cu]CuATSMの集積が指示する腫瘍の難治性にDNA修復の亢進がかかわっている可能性についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な試薬類の購入には、残金が足りなかった。 翌年分と合わせて研究に必要な試薬、器具などの購入に充てる予定である。
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