研究実績の概要 |
放射線抵抗性をもつ難治性癌(膵癌や肺癌)に対して、重粒子線(炭素線)治療は比較的良好な局所制御を示すが、しかし治療成績はまだ満足できるものではない。治療成績向上の手段として重粒子線治療の線量増加が挙げられるが、癌に近接する正常組織の障害(膵癌では消化管出血、肺癌では肺障害など)も増加させてしまう可能性が高い。また重粒子線の殺腫瘍効果は線エネルギー付与(LET)と密接に関連する。LETとは重粒子線の飛跡に沿って単位長さあたりに物質が受け取るエネルギー量と定義され、基本的にはこの値が大きいほど細胞を殺傷する効果が高くなる。以前は照射領域のLET分布が均一ではなく、危険臓器に高LETが照射されることも少なくなかった。しかし近年は細いビームを用いて対象領域を塗りつぶすように照射できるスポットスキャニング照射法と、あらゆる方向から照射できる回転ガントリー装置が開発されている。これらの技術により照射領域の線量を均一に維持しつつ、LETの調整が徐々に可能となった。しかしながら、LETと正常組織障害の関係についてはまだよくわかっていない。そこで本研究では重粒子線治療によって起こる正常組織(消化管と血管、肺)の障害の生物学的機序を明らかにし、障害発生の予測モデルを開発することを目的とする。 本年度は、炭素線治療線量のリファレンス細胞であるヒト唾液腺癌細胞ならびにヒト正常肺気管支細胞に対して、LETは、15, 20, 30, 50, 70 keV/μmに設定し、各LETに対して0.25, 0.5, 1, 2, 3, 5 Gyと段階的に照射を行い、殺細胞効果を検討した。その結果、ヒト正常肺気管支細胞とヒト唾液腺癌細胞は、LET依存的にα値が上昇し、その傾きは一致していた。この結果により、肺気管支細胞の殺細胞効果は、従来の治療計画により予測できる事を示した。
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