研究課題/領域番号 |
21K07699
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
余語 克紀 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 助教 (30424823)
|
研究分担者 |
歳藤 利行 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (30377965)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 水の発光 / 高い線量率 / 放射線治療 / 陽子線治療 / 品質保証 |
研究実績の概要 |
がん放射線治療は高齢化が進むわが国で有効な治療法である。治療では放射線を当てるべき腫瘍と避けるべき正常組織が混在しており、どこにどれだけ当てるかが治療成否のカギとなる。したがって、治療中の放射線が患者にどれだけ当たっているか、つまり照射線量の分布を可視化し、即時に確認する方法があれば有用である。 研究代表者は、10Gy/min 程度の高い線量率の治療用γ線を水に照射した際に生じるチェレンコフ光は発光が強く、線量分布の観測が可能なことを示した。この発光を治療中に観測するためには、1)体内の発光が微弱であること、2)人体は”濁り水”であり、散乱が主体となって減弱することを解決する必要がある。その第一歩として、本研究では、さらに高い線量率のビーム照射による発光の増幅により、患者体内の線量分布を可視化することができないか、明らかにしたい。 本年度は、超高線量率・陽子線治療(FLASH)ビームを用いた照射実験を開始した。国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)のサイクロトロンからの60MeV陽子線を用いて実験を行なった。FLASHビームの線量率は50 - 150 Gy/sまで変化させ、従来法の線量率~0.03 Gy/sの結果と比較した。まず水にFLASHビームを照射して、水に生じた発光を冷却式CCDカメラで撮影した。FLASH実験に適した観察システム(水槽、固定具、光学系など)を作成し、微弱発光の撮影に成功した。この発光を簡便な線量分布の測定に応用するため、発光の基礎特性を調べた。測定した発光分布を、電離箱線量計の測定による線量分布の結果などと比較した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、生体での発光の観察に向け、 まず水の発光を観察し、基礎特性を調べた。従来ビームより、線量率が約1,000倍高い、超高線量率・陽子線治療(FLASH)ビームを照射し、水の発光を観察する実験を開始した。量子科学技術研究開発機構(QST)のAVF-930サイクロトロンの60MeV陽子線を用いて、線量率を変えて照射実験を行なった(従来;0.03 Gy/s、FLASH条件;50 - 150 Gy/s)。 FLASHビームを照射した水からの発光画像を取得することができた。 FLASHビーム誘発の水の発光画像は、従来のビームよりもはるかに短い露光時間(10倍以上)で、明確に視覚化された。 FLASHビームの線量と発光輝度の関係を調べたところ、発光輝度は、従来ビームの発光と同様に、線量に比例した。発光輝度と線量率の関係を調べたところ、0.03 - 150 Gy/sの間では、輝度の差は5%以内であり、有意な線量率依存性は観察されなかった。FLASHビームの深さ方向の輝度プロファイルは、従来ビームの輝度プロファイルと一致した。FLASHビームの深さ方向の輝度プロファイルと電離箱で測定した線量プロファイルを比較したところ、ブラッグピークの近傍で最大差 約30%以内で一致した。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度は、サイクロトロンからの連続ビームを用いてFLASH照射の実験を開始することができたが、エネルギーが低いため飛程が短い(約2cm)。今後は、シンクロトロンからの治療用パルスビーム、かつ、高エネルギービームを用いて飛程が長い条件下で、より臨床に近い条件での測定を行う予定である。またビーム照射の対象を水から、さらに患者体内に近づけた生体模擬サンプルなどを用いて発光の観察を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度は、既存のカメラや光学系を用いても、FLASHビーム誘発の発光画質が得られることが分かった。そこで、既存のシステムでできる限り基礎特性のデータ収集を行うことにした。そのため、当初、新型カメラや光学系のために予定していた予算を使わなかった。 今年度は、撮影システムの改善を行うため、予算を使用する予定である。システムのどこを改善して、どのようなデータ取得を目指すのか、優先順位を考えながら予算をあてていく。具体的には、カメラ、光学系、装置固定具、遮光法の改善、水質の改善などが候補である。
|