研究課題/領域番号 |
21K07704
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
水田 賢志 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (50717618)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 求核的フッ素化反応 / α-ブロモアミド / アジリジノン / double inversion |
研究実績の概要 |
カルボン酸や、エステル・アミドといったカルボン酸誘導体は、医薬品や天然物に数多く見られる重要な構造である。そのため、様々なカルボン酸誘導体の効率的な合成法であるカルボニル化合物のα-修飾反応は重要な反応である。しかし、カルボニル化合物のα炭素へのフッ素化や[18F]標識化は、ポジトロン断層撮影(PET) における創薬開発に直結した魅力的な反応であるが、実用的な方法は未だない。その理由に、実用的な[18F]標識化はフッ化物イオン等の求核剤を用いる必要があるため、フッ化水素やアルカリ金属フッ化物(MF:M= K, Cs)等をフッ素源とした求核的フッ素化反応が、[18F]標識化法の主流となっている点にある。求核置換反応(SN2反応)で進行するため、嵩高い基質には適さず、基質適用範囲が狭いことが欠点である。本年度は、銀塩を用いると温和な条件かつ簡便な操作で、1-3級α-ブロモアミドの求核的フッ素化反応が進行することを見出した(CEJ2022)。本手法を基に、AgSCF3を用いたトリフルオロメチルチオ化反応に応用することが出来た。光学活性な基質を用いると、絶対配置が維持された光学活性なフッ素化生成物が得られることから、カチオン性アジリジノン中間体を経由した"double inversion"で反応が進行していることが示唆された(論文作成中)。立体特異性をもち、嵩高いカルボニルα炭素への求核的フッ素化およびトリフルオロメチルチオ化反応の開発に成功した。 創薬シーズの探索では、インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼのサブユニットPA-PB1のタンパク質間相互作用を標的とした薬剤開発に取り組んだ。計算化学の手法を活用した分子設計から、優れた抗インフルエンザ活性を示すキノリノン誘導体を同定するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1)銀塩を用いたカルボカチオン中間体への迅速フッ素化、2)創薬シーズの探索を実施した。銀塩を用いて1電子を能動的に制御し、カルボニルのα位にカルボカチオンもしくはカチオン性中間体であるアジリジノン中間体を効率よく発生することを明らかにした。実際に、アジリジノン中間体を単離し、Olah試薬と反応させると、α位にフッ素原子が付加することを実証した。得られた知見を基に、光学活性なα-ブロモアミド誘導体から、絶対配置を維持したフッ素化体が得られる。本フッ素反応の手法を用いて、AgSCF3を用いた嵩高いカルボニル化合物のα位への求核的トリフルオロメチルチオ基の導入に応用することが出来た(JOC 2022)。 創薬シーズの探索として、インフルエンザのRNAポリメラーゼを構成するサブユニット(PA, PB1, PB2)を標的とした創薬研究に取り組んだ。RNAポリメラーゼのアミノ酸配列は高病原性トリインフルエンザや過去に大流行したウイルスでも高度に保存されているため、これを標的とする薬剤は、新型インフルエンザのような未知のウイルスに対する効果が期待される。分子動力学計算(MD)より、PAとPB1の蛋白質間相互作用に重要なホットスポットと呼ばれるアミノ酸領域を特定した。続いて、ドッキング計算により、親和性が高く、結合エネルギーが安定な化合物ライブラリーから選出し、MDCK細胞を用いたin vitro評価を行った。その結果、PAとPB1の蛋白質間の相互作用を阻害するキノリノン誘導体を同定した。さらに、構造最適化を実施し、100種類以上の類縁体の中から、ヒット化合物より効果が10倍程度強い化合物の取得に成功した(JMC2022)。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
見出された銀塩を用いたフッ素化反応では、基質が1級および2級アミドに限定されることから、2022年度では、より汎用性を広げるためにカルボン酸α位への求核的フッ素化反応に展開することを計画している。α―ブロモカルボン酸に銀塩を処理すると、基質の重合が観察された。そこで、視点を変えて銅触媒によるクロスカップリング法および光触媒を用いた求核的フッ素化反応に取り組む。これら独自の方法論によるフッ素化反応を開発することで、これまで報告例のない [18F]標識カルボニル化合物のPETプローブの合成法となることが期待される。合成困難である複雑な官能基を有する[18F]標識化ペプチドや抗体への利用が可能であることから、PET診断のパラダイムシフトが予想される。 一方、PET標識分子の候補を探すために、引き続き創薬シーズの探索を実施する。抗インフルエンザ剤および、新型コロナウイルスならびに顧みられない感染症の治療薬開発を目指す。抗マラリア薬として知られているクロロキン(CQ)やヒドロキシクロロキン(HCQ)は、インフルエンザ、強いては新型コロナウイルス感染症等の新興感染症に対する治療薬になりうることが期待されている。そこで、CQ、HCの物理的性質(細胞膜透過性、logP, logD etc.)に着目し、リピンスキーの法則に従ってアミン部位を構造改変し、いくつかのCQ誘導体を合成する。これら誘導体に対するインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスに対するin vitro評価を行って、物理的性質と抗ウイルス効果の相関関係を調査を計画する。
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