カルボニル化合物のα炭素へのフッ素化や[18F]標識化は、ポジトロン断層撮影(PET) における創薬開発に直結した魅力的な反応であるが、実用的な方法は未だない。その理由に、実用的な[18F]標識化はフッ化物イオン等の求核剤を用いる必要があるため、フッ化水素やアルカリ金属フッ化物をフッ素源とした求核的フッ素化反応が、[18F]標識化法の主流となっている点にある。フッ素アニオンを用いた反応は、典型的に求核置換反応(SN2反応)で進行するため、嵩高い基質には適さず、基質適用範囲が狭いことが欠点である。研究計画通り、銀塩を用いると温和な条件かつ簡便な操作で、1-3級α-ブロモアミドの求核的フッ素化反応が進行することを見出した(CEJ2021)。昨年度は、 AgSCF3を用いたトリフルオロメチルチオ化反応に着手し、嵩高いα-SCF3アミドの合成に成功した(JOC2022)。本年度は、DFT計算を実施した理論計算と実験データから、反応機構に関する研究を実施した。その結果、予想通りアジリジノン中間体を経由した反応が示唆された。本理論から、立体特異的なα炭素へのフッ素化およびトリフルオロメチルチオ化を行い、光学活性なα置換アミドの合成へと導いた (EJOC2023)。一方、AgFを用いたα-ブロモエステル類のフッ素化反応は、低収率に留まった。そこで、適切な求核的フッ素化剤と添加剤の組み合わせを調査したところ、不溶性のAgFにEt3N・3HFを添加することで、反応溶媒に溶解し、さらには収率が向上することを見出した(論文投稿中)。本手法は、カルボカチオン中間体を形成する前駆体である3級臭化アルキルを含むα-カルボニルベンジルブロミド、フェニルチオフルオロアルキルブロミド、および2-ブロモ-2-フェノキシアセトニトリルへのフッ素化に利用することに成功した。
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