研究課題/領域番号 |
21K07710
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研究機関 | 北海道科学大学 |
研究代表者 |
佐々木 恒平 北海道科学大学, 保健医療学部, 准教授 (20736376)
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研究分担者 |
松谷 悠佑 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (20826929)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 低線量被ばく / シミュレーション / 造影剤 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヨード造影剤による放射線増感効果の評価と、低線量被ばくによる生物学的影響を考慮した線量指標の開発を目的とした。しかしながら、研究の進捗が遅れ、当初予定していた研究計画を完遂することができなかった。このため、研究期間を1年間延長し、引き続き研究を継続することとした。 (1)ヨード造影剤による放射線増感効果の評価 造影CT検査を再現するため、異なる濃度のヨード造影剤を添加した培地でV79細胞を培養し、120kV-X線により照射実験を行った。DNA二本鎖切断の評価にはガンマーH2AX抗体による免疫染色法を用いた。その結果、照射群ではヨード造影剤濃度に依存してDNA二本鎖切断の有意な増加が確認された。一方、非照射群ではヨード造影剤によるDNA損傷の増加は見られず、ヨード造影剤自体にはDNAに対する毒性がないことが示された。 (2)低線量被ばくによる生物学的影響を考慮した線量指標の開発 細胞実験によるDNA損傷数のデータ取得は予定通り進めることができたが、数理モデルの開発には至らなかった。期間延長後は、取得したデータを用いて体表面からの水等価厚をパラメータとしたDNA損傷発生の期待値に対する重み付け係数を求めるための数理モデルの開発を進める予定である。 本研究により、ヨード造影剤による放射線増感効果が明らかとなったが、低線量被ばくによる生物学的影響を考慮した新たな線量指標の開発には至らなかった。期間延長後も引き続き研究を継続し、当初の目的を達成したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、ヨード造影剤による放射線増感効果の評価と、低線量被ばくによる生物学的影響を考慮した線量指標の開発を目的としているが、R5年度においては当初の研究計画に遅れが生じた。その主な理由は以下の通りである。 (1)実験手法の確立に時間を要した ヨード造影剤による放射線増感効果の評価には、細胞実験によるDNA損傷の定量的評価が必要である。しかしながら、当初予定していた実験では十分な結果を得られなかった。このため、十分な実験に想定以上の時間を要することが判明した。 (2)数理モデルの開発の難航 低線量被ばくによる生物学的影響を考慮した線量指標の開発には、DNA損傷発生の期待値に対する重み付け係数を求めるための数理モデルの構築が必要である。しかしながら、細胞実験で得られたデータをモデルに適用する際に、当初想定していなかった課題が明らかとなった。このため、モデルの修正や新たな解析手法の導入など、数理モデルの開発に想定以上の時間を要した。 以上の理由により、R5年度の研究計画に遅れが生じた。しかしながら、研究期間の延長により、これらの課題を克服し、研究を継続することができた。R6年度以降は、得られた知見をもとに研究を加速し、当初の目的を達成することを目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
R6年度以降は以下の研究施策を推進する。 (1)ヨード造影剤による放射線増感効果の評価 R5年度までの研究により、ヨード造影剤による放射線増感効果が明らかとなった。R6年度以降は、この効果のメカニズムを解明するため、ヨード造影剤によるDNA損傷の詳細な分析を行う。 (2)低線量被ばくによる生物学的影響を考慮した線量指標の開発 R4年度までに取得したDNA損傷数のデータを用いて、体表面からの水等価厚をパラメータとしたDNA損傷発生の期待値に対する重み付け係数を求めるための数理モデルの開発を進める。また、他の生物学的指標(染色体異常、細胞死等)についてもデータを取得し、総合的な評価を行う。これらの結果をもとに、低線量被ばくによる生物学的影響を考慮した新たな線量指標を提案する。 以上の研究施策を推進することにより、ヨード造影剤による放射線増感効果の評価と、低線量被ばくによる生物学的影響を考慮した線量指標の開発を完遂し、放射線診療における患者の放射線防護の更なる最適化に寄与することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
R5年度の研究計画に遅れが生じたため、研究期間の延長により、これらの課題を克服し、研究を継続する。R6年度以降で実験消耗品などに使用していく予定である。
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