研究課題/領域番号 |
21K07749
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石井 良 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (90794008)
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研究分担者 |
石田 秀和 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50467552)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 拡張型心筋症 / 心筋線維芽細胞 / 心筋細胞 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
小児拡張型心筋症の患者において、補助人工心臓装着時あるいは心臓移植時に心筋組織を採取し、そこから心筋線維芽細胞の培養を行った。この心筋線維芽細胞の初代培養細胞と、健常人由来心筋線維芽細胞を使用して実験を行った。 まず、細胞の基本的機能である細胞増殖能・遊走能・接着能については、拡張型心筋症の心筋線維芽細胞は健常と比較して有意な変化は認めなかった。さらに、細胞アポトーシスやミトコンドリア機能についても差を認めなかった。次に、健常な心筋細胞と共培養を行うと、拡張型心筋症心筋線維芽細胞と共培養した心筋細胞では、収縮能および拡張能が増悪することが明らかとなった。拡張型心筋症心筋線維芽細胞では、遺伝子発現パターンが健常の心筋線維芽細胞とは大きく異なっており、様々な液性因子や接着因子の発現変化によって、心筋線維芽細胞が主体的に心筋細胞の機能を障害することが明らかとなった。 この拡張型心筋症心筋線維芽細胞の集団の中に、特に発現パターンの異なっているsub-populationが存在するのかどうかを明らかにするために、single cell RNA-seq解析を行った。今までのところ、明らかに病態形成に関わるような発現パターンを示すsub-populationは同定できていないが、引き続き解析が必要である。 さらに、拡張型心筋症患者の血液中の白血球からiPS細胞を樹立した。このiPS細胞を用いて心筋細胞への分化誘導を行い、十分に心筋細胞へと分化することを確認した。これに対して、CRISPR/CASシステムを用いた遺伝子改変により、同定されているサルコメア遺伝子異常を修復したiPS細胞のisogenicラインを現在作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、拡張型心筋症心筋線維芽細胞の細胞生物学的な特徴についての解析を行っている。また、single cell RNA-seqにより、拡張型心筋症心筋線維芽細胞の中に、特に病態形成に大きな役割を果たしている可能性があるsub-populationの同定を試みている。現在までのところ、そのようなsub-populationは存在しない可能性が示唆されているが、その結果はそれで有用な発見である。 iPS細胞由来心筋細胞の分化誘導法については、本研究で使用するiPS細胞ラインにおいても確立できた。概ね90%以上のpurityでの分化誘導が可能である。また、iPS細胞由来心筋細胞と心筋線維芽細胞の共培養系についても確立した。当初は、iPS細胞由来心筋細胞を蛍光標識する予定であったが、既報の方法である、SIRPAを用いたMACSによって、効率的に心筋細胞と心筋線維芽細胞を分離することが可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
iPS細胞については、近年、その健常コントロールとして、患者が有する遺伝子異常をCRISPR/Casなどの遺伝子改変技術をもとに、修復をおこなったisogenic iPS細胞ラインを用いることが有用とされている。このラインの作成には、遺伝子のミスセンス変異の部位によって、PAM配列が近傍にない場合など、様々な技術的ハードルがあり、作成にかかる時間には大きな差がある。引き続き、isogenic iPS細胞ラインの作成に取り組んでいく。このラインが作成されたのち、心筋細胞へと分化誘導の条件を確認したあと、拡張型心筋症のiPSC由来心筋細胞と遺伝子修復ラインの心筋細胞とで、健常心筋線維芽細胞と共培養を行い、心筋細胞から心筋線維芽細胞への液性および接着因子による影響を確認していく予定である。
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