小児拡張型心筋症の患者において、補助人工心臓装着時あるいは心臓移植時に心筋組織を採取し、そこから心筋線維芽細胞の培養を行った。この心筋線維芽細胞の初代培養細胞と、健常人由来心筋線維芽細胞を使用して実験を行った。 まず、細胞の基本的機能である細胞増殖能・遊走能・接着能については、拡張型心筋症の心筋線維芽細胞は健常と比較して有意な変化は認めなかった。さらに、細胞アポトーシスやミトコンドリア機能についても差を認めなかった。次に、健常な心筋細胞と共培養を行うと、拡張型心筋症心筋線維芽細胞と共培養した心筋細胞では、収縮能および拡張能が増悪することが明らかとなった。拡張型心筋症心筋線維芽細胞では、遺伝子発現パターンが健常の心筋線維芽細胞とは大きく異なっており、様々な液性因子や接着因子の発現変化によって、心筋線維芽細胞が主体的に心筋細胞の機能を障害することが明らかとなった。パスウェイ解析により、細胞外マトリクスの発現変化と接着因子のシグナル経路の異常、さらにHippo pathwayやTGFβの経路が拡張型心筋症の心筋線維芽細胞では有意に変化してい ることが明らかとなった。 この拡張型心筋症心筋線維芽細胞の集団の中に、特に発現パターンの異なっているsub-populationが存在するのかどうかを明らかにするために、single cell RNA-seq解析を行ったが、明らかに病態形成に関わるような発現パターンを示すsub-populationは同定できなかった。この成果については、Journal of the American Heart Association誌に発表した。(J Am Heart Assoc. 2023 Jul 4;12(13):e029676. doi: 10.1161/JAHA.123.029676. )
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