研究課題/領域番号 |
21K07754
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小林 勝弘 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (60273984)
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研究分担者 |
柴田 敬 岡山大学, 大学病院, 助教 (00769961)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 発達性てんかん性脳症 / 脳波分析 / 高周波振動 / 発達 / 認知 |
研究実績の概要 |
小児とくに乳幼児の認知機能発達ならびにそれを阻害する病態要因に関わる一連の脳波分析研究を行っている。申請者らは既に認知機能障害を来す発達性てんかん性脳症において、頭皮脳波上の高周波・速波振動 (HFO/FO)が顕著に出現し、病態に深く関わっていることを示した。HFO/FOは通常の脳波周波数帯域より遥かに高い周波数の明瞭な振動である。頭蓋内電極記録ではてんかん原性との関係を以前より指摘されていたが、申請者らが頭皮脳波でも検出できることを示し、発達性てんかん性脳症の病勢との関係を指摘したものである。 今回の研究計画では発達性てんかん性脳症(ウエスト症候群、レノックス・ガストー症候群およびその類縁てんかん病型)の多数症例の治療過程でHFO/FOの消長と治療効果(てんかん発作および認知・発達)の関係を詳細に、多変量解析により解明することを目指している。乳幼児の認知・発達は成人とは異なり詳細な検査は難しいので、行動の様子を週毎にチェックして、その変化と治療経過やHFO/FOとの関係を分析することにしており、現在は昨年度に引き続き症例を集積しつつ、分析を加えているところである。 並行して非てんかん性のHFO/FOと認知能力や行動発達との関係という側面からもこの問題を追及しており、昨年はてんかん発作を示さない自閉スペクトラム症 (ASD)と注意欠如・多動症 (ADHD)の未投薬小児においても、脳波から生理的と思しいHFO/FOを同様の方法論で検出して、その意義について分析を加えた。本年は更に頭皮脳波から検出されるFOの真正性を確認する技術的開発も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
発達性てんかん性脳症の小児患者は初年度から現時点までで11例が入院治療した。ビガバトリン治療はそのうち10例で行い、副腎皮質刺激ホルモン (ACTH)療法は3例で行った。1例では手術療法を行った。症例数が2年間にわたり例年よりもかなり少なかったことが研究が停滞していることの最大の原因であり、これにはコロナ禍での小児患者受診控えの影響が大きい。加えて良好な治療効果が上がったのは5例であり、難治例が過半数になっていることも研究が困難になったことに関わっている。分析結果としては1分あたりのFOは、治療前の平均 327 (範囲: 27-558)から平均 85 (13-268)に減少し、その平均減少率は治療反応例では0.141、難治例では0.536であり、FOの減少は治療効果を反映していることが示された。しかし発達面では未だ明らかな差異や関係性は検出できていない。 平行研究としてのASDとADHDの小児における非てんかん性 HFO/FOの解析については、124例の行動発達障害を有するがてんかんはない小児で、ripple帯域 HFOを検出した例は多変量解析で有意に知能が高く、ADHDが少ないという結果を得ている。 頭皮脳波のFOの真正性に関する研究では50症例において、各10個の棘波を選び、2階数値微分処理でもFOが検出できることを示し、FOが単なるフィルタ処理によるアーチファクトではないことを示した。この1年は更にこのように平行研究では成果が上がった。
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今後の研究の推進方策 |
発達性てんかん性脳症の症例を蓄積し、多変量解析することを引き続き目指して行く。ACTHの供給不足が新たな治療上の問題として浮上し、ビガバトリンの使用が眼科検査のマンパワーの点から増やし難いなど、研究のみならず国内全体に共通する診療上の問題が立ちふさがることになったが、何とか治療と研究を進めたい。幸い2023年初よりACTHの供給はされ、コロナ禍もおさまる様子であるため、研究の進捗が見込まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に若干の遅れがあるため次年度使用額が生じた。次年度の研究費は消耗品にあてる予定である。すなわちデータ保存用に小型ハードディスクなどを購入し、できれば英文論文を執筆してその英文校正や出版の費用にもしたい。
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