研究課題/領域番号 |
21K07755
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山下 竜幸 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 助教 (30571038)
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研究分担者 |
王 飛霏 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 助教 (10629033)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 臍帯 / 細胞外分泌小胞 / EVs / MSC / 硫酸化糖脂質 / サルファタイド |
研究実績の概要 |
臍帯MSCのサルファタイド刺激培養により得られたEVs(sul(+)EVs)に含まれるタンパク質をマススペクトロメトリーにより無刺激の臍帯MSC由来EVs(sul(-)EVs)と比較した結果、TGF-βファミリーサイトカインの一種であり、神経の増殖や分化に関与することが報告されているGDF-15がsul(+)EVsにのみ検出された。さらにGDF-15に対する抗体を用いたwestern blot解析により、GDF-15がsul(-)EVsに対しsul(+)EVsで5倍以上に濃縮されることがわかった。 sul(+)EVsとsul(-)EVsに含まれるmicroRNAの定量比較解析を行った結果、神経幹細胞から神経細胞への分化を促進することが報告されているmiR-17,miR-106aの含有量がsul(+)EVsで有意に高かった。 これらの結果からsul(+)EVsに含まれるGDF-15やmiR-17,miR-106aが、HIEモデルマウスの神経傷害回復効果に寄与する可能性が高いことが示唆された。また、硫酸化糖脂質が特定のサイトカインやmicroRNAをEVsへソーティングするという新たな分子機構の存在が明らかとなった。 さらに、我々はEVs表面のホスファチジルセリン量がsul(+)EVsで有意に増加することを見出した。ホスファチジルセリンはEVsがどの細胞に送達されるかを決める宛先として機能すると考えられており、硫酸化糖脂質がEVsの宛先を制御するという新たな機能も明らかとなってきた。 これらの事をまとめると硫酸化糖脂質にはMSCに働きかけて特定の細胞に特定の分子を送達させる機能があることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画ではsul(+)EVsに含まれるどの分子がHIEモデルに対する治療効果を示すのかを調べることが目的であったが、生体内で機能する分子としては特に重要なサイトカインがその候補分子として見出された。サイトカインはその効果の多様性のため、ある病態への治療目的で利用しようとしてもあらゆる細胞に及ぼす影響が強く、臨床応用に当たっては副作用を引き起こすリスクを避けられなかった。本発見はサイトカインをピンポイントの細胞にのみ作用させるという新たな治療応用の可能性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
sul(+)EVsのHIEモデルマウスに対する治療効果とマウス神経幹細胞に対する神経分化誘導能が、含有するGDF-15によるものなのか、miR-17,miR-106aによるものなのか、あるいはそれらの相乗効果によるものなのかを検証する。 まず、MSCのGDF-15欠損株をCRISPAR/Cas9システムを用いて作成し、この欠損株をサルファタイドで刺激培養して得られるEVsを精製する。これをHIEモデルマウスに投与し、その治療効果が損なわれているかどうかを確認する。さらに同EVsを含む培地でマウス神経幹細胞を培養し、その神経分化能が損なわれるかどうかを調べる。 miR-17及びmiR-106aの阻害剤(相補オリゴヌクレオチド)をsul(+)EVs含有培地に加えマウス神経幹細胞を培養し、そのsul(+)EVsの神経分化促進効果が打ち消されるかどうかを検証する。 GDF-15の他に、GDF-1,GDF-2, GDF-3, GDF-5, GDF-9, GDF-11がEVsに存在することがわかっている(Exocarta:エクソソームデータベース)。サルファタイドがGDF-15同様に他のGDFファミリーに対してもEVsへのソーティング効果を示すのかを検証し、硫酸化糖脂質によるEVsソーティングシステムの存在を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定していた消耗品の価格と実際の購入額に若干の差があり、次年度使用額が発生したが、次年度の消耗品購入に充てることとする。
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