研究課題
MCT8異常症は、甲状腺ホルモンの細胞膜輸送蛋白であるMCT8に異常を来し、発語も独歩も獲得できない最重度の脳障害を呈する。現在、早期診断法、治療法は確立されておらず、分子病態を基盤とした早期診断法および治療法の開発が必要である。また、本邦を含めて大規模解析はなされておらず、発症頻度も不明である。本研究では、1)新生児期の早期診断法の開発、2)発症頻度の解明、3)脳障害モデル動物を用いた遺伝子治療の開発を目的とする。脳障害が出現する前に診断できる早期診断法、最も重要な症状である脳障害を改善する治療法、医療経済への影響を検討するのに必要な発症頻度を確立することを目指す。研究の結果、MCT8異常症患児は正常新生児より、重なりを持たずにrT3は低値、rT3/T3比は高値だった(p <0.0001)。また、MCT8異常症の頭部MRIにおいて前頭葉での髄鞘化不全が起こっていることを見出した。甲状腺ホルモン代謝物測定による早期診断法の可能性に関する論文とMCT8異常症の頭部MRIにおける特徴に関する論文のいずれも英文で発表した。アメリカ内分泌学会、日本医用マススペクトル学会、日本小児内分泌学会などでも同内容の学会発表も行っており、研究成果の発信に努めている。これらの研究を行うにあたり、シカゴ大学(米国)、マイアミ大学(米国)、アムステルダム大学(オランダ)との国際共同研究を行っている。また、2021年に欧州で甲状腺ホルモンアナログであるTriacがMCT8異常症に対し効果を有することが報告された。国内での実用化に際し、欧州の共同研究機関と連携を取り、必要なデータや許可などについて情報収集を行う。十分な情報が得られたらPMDAと事前面談を行い、医薬品戦略相談に進む方針である。
3: やや遅れている
疾患モデルマウスを用いた遺伝子治療法の開発を行っていたが、他グループからMCT8異常症の遺伝子治療法に関する論文が出版されたため新規性が失われた。Crisper/Cas9を用いて疾患モデルマウスの作製を試みているが、フレームシフトを含む塩基挿入/欠失が起こっているにもかかわらず標的蛋白質のノックアウトができないという現象に悩まされている。他の研究でもCrisper/Cas9を用いたノックアウトで標的蛋白質が消失しないという現象が報告されており、生体が遺伝子異常を克服する未知の現象をとらえている可能性を検討している。
MCT8異常症の患者では塩基挿入・欠失による遺伝子異常が原因となっており、今後もそれらのモデルマウスに対する遺伝子治療の効果を評価していく。また、レームシフトを含む塩基挿入/欠失が起こっているにもかかわらず標的蛋白質のノックアウトができないという現象についても、その現象の存在の確定やメカニズムの同定を進めていく予定である。
コロナ禍で研究の進捗が不十分であり若干の次年度使用額が生じた。金額は少なく、次年度で使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Thyroid
巻: 31 ページ: 1316~1321
10.1089/thy.2020.0696
Frontiers in Neurology
巻: 12 ページ: -
10.3389/fneur.2021.657820