研究課題/領域番号 |
21K07784
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
田中 泰圭 福岡大学, てんかん分子病態研究所, ポスト・ドクター (50714466)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Dravet症候群 / 発達性てんかん性脳症 / SCN1A / Nav1.1 / iPS細胞 / 脳オルガノイド疾患モデル / GABA作動性神経細胞 / 神経変性 |
研究実績の概要 |
ドラベ症候群(DS)における発達性てんかん性脳症(DEE)の発症は、群発する難治のてんかん発作により惹起されると考えられている。この群発するてんかん発作に伴った神経毒性や神経変性の関与が疑われているが、DEEにおける重篤な認知機能障害などを含む発達遅滞の発症機構については、未だ不明な点が多い。すなわち、DEEの発症機序を解明すれば、難治性疾患であるDSの根治を目指した革新的な治療研究に繋がることが期待され、苦悩する患者や家族にとって大きな福音となる。 そこで本研究では、DS患者iPS細胞から病態への関与が想定される終脳領域のオルガノイドを作製し、① 神経変性および神経毒性に焦点を当てた病態解析を実施することで、DEEの発症機構の解明を目指す。そして、② 未だ分子生物学的原因が不透明なDEEの発症機序に対して、病因の科学的な定義付けにより、DEEの根治を見据えた治療標的を同定する。 DS患者由来iPS細胞より終脳領域のオルガノイドの作製に成功したおり、加えて、創薬スクリーニングへの応用が可能な多電極アレイシステムを用いた、脳オルガノイドの自発的な神経活動発火および神経ネットワーク活動の電位測定系を構築した。本研究は、この終脳領域のオルガノイド誘導法を活用して、DS患者におけるDEEの病態解明を目指す研究へ発展させたものである。現在は、RNA-seqを用いて健常者由来とDS由来のMGEOsにおける遺伝子発現を比較したところ、数種類の遺伝子で発現が変化していることが分り、これら遺伝子発現変化がDSの病態形成に関与するか解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では3ラインのヒトiPS細胞(健常者由来iPS細胞:健常コントロール、DS患者由来iPS細胞:DS病態モデル、患者由来人工健常iPS細胞:SCN1A遺伝子異常を修復したDS病態モデルとisogenicな健常コントロール)を用いて、MGE領域に由来する脳オルガノイドを作製した。作製した脳オルガノイドでは、MGE領域マーカーであるFOXG1およびNKX2.1の発現が陽性な神経幹細胞が観察され、MGE領域に属する脳オルガノイド(MGEOs)であることが確認できた。 12週間培養したMGEOsにおいて、BII-tubulin陽性な神経細胞とGFAP陽性なアストロサイトの発現が観察された。加えて、神経細胞においては、VGLUT1陽性なグルタミン酸作動性の興奮性神経細胞およびVGAT陽性なGABA作動性の抑制性神経細胞が発現していた。抑制性神経細胞のサブタイプの同定を試みた結果、てんかんの病態に重要なParvalbumin(PV)陽性な抑制性神経細胞が含まれていることが分かった。また、このPV陽性な神経細胞ではNav1.1の発現も認められ、作製したMGEOsがDSの病態モデルとして活用できることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
12週間培養したMGEOsからRNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いたRNAシークエンス解析により網羅的な遺伝子発現解析を行った。RNA-seqを用いて健常者由来とDS由来のMGEOsにおける遺伝子発現を比較したところ、数種類の遺伝子で発現が変化していることが分かった。現在、これらの遺伝子発現変化がDSの病態形成に関与するか解析中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 作製した脳オルガノイドの標的遺伝子の発現を分子生物学、生化学および免疫組織化学/免疫細胞化学的に多角的な手法で解析する予定であったが、コロナの影響で海外からの抗体等の試薬や消耗品が上手く入荷されなかった。そのため、まずはin silicoでの解析に専念し、次年度に上記の実験に必要な費用を繰り越した。 (使用計画) 作製した脳オルガノイドの標的遺伝子の発現を分子生物学、生化学および免疫組織化学/免疫細胞化学的に多角的な手法で解析するための研究費として使用する。
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