研究課題/領域番号 |
21K07788
|
研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(静岡・てんかん神経医療センター臨床研究部) |
研究代表者 |
高橋 幸利 独立行政法人国立病院機構(静岡・てんかん神経医療センター臨床研究部), その他部局等, その他 (70262764)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 抗NMDA受容体脳炎 / 自己抗体 / グルタミン酸受容体 / けいれん重積 / 予後 / てんかん発作 / 認知機能障害 / 精神症状 |
研究実績の概要 |
【研究課題】髄液cell-based assay陽性抗NMDA受容体脳炎の予後:臨床特徴の影響 【目的】抗NMDA受容体脳炎はADEMに次いで多い自己免疫性脳炎であるが、自然経過としての予後(知的障害・運動障害などの経過)は不明で、予後に与える臨床特徴の影響は明らかになっていない。日本人症例の自然経過や予後に影響する臨床特徴を明らかにし、患者説明に使えるエビデンスを構築する。 【方法】Dalmauらの診断基準に基づき、cell-based assay(CBA)による髄液抗NMDA受容体抗体陽性の抗NMDA受容体脳炎(確定症例)を選び、臨床病期は、急性期、回復期、寛解期に分類し、発病年齢、奇形種の有無、重積発作持続期間などの因子を検討した。予後因子としては急性期入院日数、modified Rankin Scale(mRS)、ADL、てんかん発作、精神症状、知的障害、記憶障害、運動障害を評価した。 【結果】当センターのNMDA受容体抗体 (CBA)陽性504例中から、確定症例136例(奇形腫合併61例)を見出した。急性期-完解期の中で予後は有意に改善した。寛解期にはmRS障害53.7%、ADL障害22.2%、てんかん発作12.8%、精神症状29.0%、知的障害41.2%、記憶障害37.4%、運動障害17.0%を認めた。成人、奇形腫、先行症状(感染と頭痛)、急性症候性発作、重積発作持続例では有意に急性期入院日数が長かった。言動異常で発病、急性症候性発作、重積発作持続例では有意にmRSが不良であった。重積発作持続例では、てんかん発作、運動障害予後も有意に不良であった。記憶障害発病例では有意に精神症状予後が不良であった。急性症候性発作の出現した症例では有意に記憶障害が見られた。 【結論】抗NMDA受容体脳炎では、急性症候性発作の出現、重積発作の持続などが予後に大きく影響する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①小児期の抗NMDA受容体脳炎の臨床特徴の検討(2021年度-):2021年の研究で、小児期のNMDA受容体脳炎の特徴を明らかにできた。診断がDalmauらの示した特徴的な症状、検査所見のみでは臨床的に早期診断が難しいことを明らかにできた。 ②小児期の抗NMDA受容体脳炎の免疫病態の解明(2021年度-):小児期の抗NMDA受容体脳炎患者の血清・髄液を用いて、NMDA受容体抗体(CBA)、サイトカイン、GluN1-NT(ELISA)抗体、GluN2B-NT2(ELISA)抗体、活性化補体等を検討する。これらのマーカーの発病初期の値、免疫修飾治療による変動、予後との関係を明らかにすると同時に当センター集積の成人例と比較し小児期の特徴を明らかにする。現在、サイトカインなどを測定中である。 ③小児期の抗NMDA受容体脳炎の治療の後方視的検討(2022年度-):2022年度の研究で、抗NMDA受容体脳炎では、急性症候性発作の出現、重積発作の持続などが、mRSやてんかん発作や運動障害などの予後に大きく影響することを明らかにできた。また、急性症候性発作発症にはgranzyme Bの関与が考えられ、グルタミン酸作動性ニューロン、GABA作動性ニューロン、アストロサイトなどのアポトーシスが発作原性に寄与していることが考えられた。今後治療法と予後の関係を後方視的に検討する。ステロイドパルス治療などの1次免疫修飾治療の開始日や免疫マーカーと予後の関係、リツキシマブなどの2次選択薬の開始日や免疫マーカーと予後の関係を検討する。 ④小児期の抗NMDA受容体脳炎の中枢神経系感染後発症例の検討(2021年度以降):単純ヘルペス脳炎の単一経過例は初期からNMDA型GluR抗体が中等量産生、その後低下するが、NMDAR抗体(CBA)は2/7例で陽性となった。再燃例は初期の中等量産生から飛躍的に抗体産生が増加し、脳炎再燃症状をもたらしている可能性があると考えているが、NMDAR抗体(CBA)は4/5例で陽性となった。
|
今後の研究の推進方策 |
①小児期の抗NMDA受容体脳炎の臨床特徴の検討(2021年度-):2021年の研究で、小児期のNMDA受容体脳炎の特徴を明らかにできた。論文化を進める。 ②小児期の抗NMDA受容体脳炎の免疫病態の解明(2021年度-):急性症候性発作発症にはgranzyme Bの関与が考えられた。今後、サイトカインと予後因子との関連を検討する。 ③小児期の抗NMDA受容体脳炎の治療の後方視的検討(次年度以降):急性症候性発作とけいれん重積が大きく予後に影響することが分かったので、ステロイドパルス治療などの1次免疫修飾治療の開始日や免疫マーカーと予後の関係、リツキシマブなどの2次選択薬の開始日や免疫マーカーと予後の関係を検討する。データ蓄積を継続する。 ④小児期の抗NMDA受容体脳炎の中枢神経系感染後発症例の検討(次年度以降):単純ヘルペス脳炎後のNMDA受容体脳炎について論文化する。
|