研究課題/領域番号 |
21K07811
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
芳野 信 久留米大学, 付置研究所, 客員教授 (40080569)
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研究分担者 |
高橋 知之 久留米大学, 医学部, 准教授 (20332687)
瀬戸口 修一 福岡大学, 薬学部, 講師 (80826032)
高田 二郎 福岡大学, 薬学部, 教授 (90122704)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アンモニア / 尿素サイクル / ジメチルa-ケトグルタル酸 / グルタミン酸 / グルタミノリシス / アルギニン / オルニチン |
研究実績の概要 |
われわれはこれまでに尿素サイクル酵素異常症など先天性高アンモニア血症の新たな治療法の開発をめざして研究を進めてきた。その結果、まず培養細胞系においてブドウ糖(熱量)飢餓によってアンモニア産生が増加すること、それはグルタミノリシスの亢進によること、さらにα-ケトグルタル酸(AKG)の膜透過性誘導体ジメチルα-ケトグルタル酸(DKG)がグルタミノリシスの亢進を抑制しアンモニア産生を抑制することを見出した。 しかしAKGの生理機能は多様であることから、そのアンモニア処理促進に関してグルタミノリシスの調整以外のメカニズムの関与もあるのではないかと考え、野生型マウスを用いて、生理的食塩水のみ負荷(1群)、塩化アンモニウムを負荷(2群)、および塩化アンモニウムおよびDKGを負荷した3群を設定し、血漿アンモニア値、アミノ酸値を測定した。その結果、血漿アンモニア値は、1群に比べ2群では有意に上昇、3群は2群に比べ有意に低下(2群の22%)し、DKGのアンモニア蓄積軽減効果が認められた。 この結果は、DKGのアンモニア蓄積抑制効果の機序はグルタミノリシスの抑制以外にも多様であることを示唆する。 現在、この高アンモニア血症モデルマウスの系で、DKGによるアンモニア蓄積軽減効果の機序の解析を進めており、現時点では、DKGは肝外経路を介してアンモニア窒素をアルギニンとして尿素サイクルへ還流させることにより、アンモニア処理能力を高めることを示唆する結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗が予定より遅くなっている要因として以下のことに予測以上の時間が必要であった。実験的高アンモニア血症マウスの作成にあたり、試適投与量の検定およびDKGの投与経路の検討に予測以上に時間がかかった。さらに当初、DKGの作用機序として尿素サイクルの賦活化に焦点をあてて解析をすすめていたが、それだけでは説明できない実験結果も出始めて、機序に関して再度検討をおこなった。今後は以上の情報をもとに効率の良い実験計画に沿って研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究はもっぱらDKGによるアンモニア産生抑制および排泄促進の機序に関して進めてきた。しかしα-ケトグルタル酸(AKG)は多様な生物活性を持つことが知られている。その一つにmTORC1の活性化作用がある。mTORC1はp70S6Kの活性化を介して翻訳を促進的に調節し、いっぽうオートファジーに対して抑制的調節をすることが知られている。体タンパク質の動的平衡の観点からは、前者はその同化を、後者は異化を促進する方向の調節である。mTORC1はライソゾーム膜へ移動して始めて活性化する。α-ケトグルタル酸はその移動、つまり活性化に必須の因子である。このことからα-ケトグルタル酸は遊離アミノ酸を体タンパク合成に向かわせ(同化)、その分解(異化)によるアンモニア産生を抑制する効果が期待できる。体タンパク合成の確保は成長期のこどもの患者にとっては極めて重要な視点である。以上の課題につき、in vitro およびin vivoの実験を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
従来から継続していた高アンモニア血症マウスモデルによる実験で、文献的に採用されている塩化アンモニウムの負荷量では致死率が高いため、目的に合わせた至適負荷量の再検討および投与経路を定める基礎実験に時間がかかったため、計画が全般に遅れた。これに伴い、新規の実験の開始がずれ込み、後者の実験に必要な試薬その他の消耗品の購入のための支出が2021年度内に行えていない。2022年度には高アンモニア血症マウスモデルによる実験の追加実験を済ませ、本来2022年度におこなう予定であるタンパク質の同化・異化に関する研究を開始する予定である。この結果、2022年度には2021年度の未支出額と2022年度の支出予定額を合わせた金額の支出を見込んでいる。
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