研究実績の概要 |
本研究が対象とする1q21.1染色体領域は約1Mb, 8遺伝子を含み,統合失調症のリスク増加に加え,注意欠陥多動性障害(ADHD),発達遅延,自閉症スペクトラム症(自閉症)リスクとの関連が報告されているコピー数多型(CNV)である.今回我々は,ヒトES(胚性幹)細胞を用いた染色体操作から,1q21.1欠失(1q21.1 del),1q21.1重複細胞(1q21.1 dup)をそれぞれ樹立した.現在まで,神経幹細胞を多く含むニューロスフェアーの状態では,1q21.1del細胞はスフェアーの径がコントロール細胞と比べると小さく,神経細胞への分化が亢進する傾向にある一方,1q21.1dup細胞ではスフェアーの径が大きくコントロール細胞に比べ抗神経細胞分化,すなわち幹細胞の性質を強く保持する傾向が認められた.本結果は,形態学的解析のみならず,シングルセルRNAシークエンス(scRNA-seq)からも同様の結果が得られた. 神経分化能においては,1q21.1del細胞が亢進する結果が得られているが,各モデルの神経生理学的特性をin vitro MEA(Multi Electrode Array: 微小電極アレイ)で解析したところ,興味深いことにスパイク,バースト発火する頻度は1q21.1del, 1q21.1dup細胞ともにコントロール細胞に比べ顕著に増加する事が明らかとなった.なお,神経スパイクに対するGABA作動性神経細胞の抑制効果をGABAA受容体ブロッカーであるBicuculline処置により解析したところ,両細胞間で顕著な差は認められないことから,両細胞ともにGABA作動性神経細胞のインプット(影響)は同等である事が明らかとなった. 大脳皮質オルガノイドにおける大脳皮質層特異的な厚みの変化,遺伝子発現に関する解析は現在進行中である.
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