研究実績の概要 |
血友病A治療におけるrFVIII補充療法は、約30%の重症患者でインヒビターを発生させる。インヒビターが発生すると薬剤投与が無効化され、患者のQOLの低下、mortalityに大きな影響を与える。近年、インヒビター存在下でも止血効果を発揮するバイスペシフィック抗体・エミシズマブが開発され、血友病A治療にパラダイムシフトを起した。しかしエミシズマブの凝固活性は弱く(~15%)、抜歯や外科的手術等の緊急出血にはやはり凝固因子製剤が必要となる。つまり「インヒビター」の問題は、未だに克服すべき課題のままである。 インヒビター産生応答プロセスは、辺縁帯B細胞(Blood, 130(23):2559, 2017年)、辺縁帯定住型マクロファージ(J Thromb Heamost, 7(11)-1816, 2009年)、そしてヘルパーT細胞(Blood Adv, 22:3(20):3099, 2019年)の関与が示されているが、FVIII応答に関わる新たな細胞サブセットの同定による新規細胞療法の開発が期待されており、申請者はインヒビター産生応答に関わる脾臓免疫ニッチの関与を明らかにする事を目的とした。 その結果、インヒビター産生とその増強が主に「脾臓」で担われており(A Oda, thrombosis research, 2023年)、脾臓赤脾髄に局在する脾臓間葉系幹細胞(脾臓MSCs)がインヒビター産生細胞を含むIgG、IgM抗体産生細胞と直接相互作用し、脾臓MSCsの新生児期特異的除去によりインヒビター産生を有意に減少させるに至った(未発表)。従って脾臓間葉系幹細胞がインヒビター産生に関与する新規細胞標的になる可能性、さらに脾臓微小環境からのインヒビター産生制御という新たな概念を更なる研究の進展によって提唱していきたいと考えている。
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