研究課題
骨は、身長として縦方向に伸びていくとともに、放射状に幅が外側に広がることで成長していく。骨の外側の部分は皮質骨と呼ばれ、骨強度の重要な要素である。さらに皮質骨の構造が正常に保たれることは、骨髄が正常に機能するためにも重要である。皮質骨は、成長板から生じる海綿骨が癒合することで形成された骨が外側部分の細孔が閉じ、その後高密度の骨と置き換わっていくことで成熟していく。しかしながら、皮質骨の形成と成熟の分子生物学的メカニズムは、ほとんどわかっていない。これまでの私どもの研究から「骨細胞におけるSOCS3を介した抑制シグナル」と「骨細胞と骨髄でのG-CSFRを介したシグナルの相互作用」がメカニズムとして重要であることが判明している。本研究では、骨細胞と相互作用する骨髄細胞として、予備実験の結果から「好中球」に着目した。そこで、好中球ノックアウトマウス(C/EBPεnullマウス)と骨細胞特異的SOCS3ノックアウトマウス(Dmp1Cre:Socs3f/fマウス)を交配して、Dmp1Cre:Socs3f/f:C/EBPε-/-マウスを作成し、マウスの形態学的解析、組織学的解析、分子生物学的解析を行うことにより、骨細胞と好中球の相互作用のメカニズムを明らかにする予定であった。しかしながら、これまで様々な報告で使用されているC/EBPεnullマウスが入手困難であることや、コロナ禍による大学動物実験施設の縮小により、当初の計画を変更せざるを得なくなった。そこで、今年度は、これまで研究を行ってきたDmp1Cre:Socs3f/fマウスとGCSFRnullマウスと交配させたDmp1Cre:Socs3f/f:Csf3r-/-マウスにおける知見について再検討を行った。
4: 遅れている
当初の研究計画で使用予定であったC/EBPεnullマウスの供与予定だった研究所からの供与が困難になった。世界中で使用されているマウスであったため、近年の論文発表から同定した研究所5カ所に問い合わせたが、既に全ての研究所で研究が終了しておりマウスの継代を行っておらず供与が難しくなった。そこで、ノックアウトマウスを購入する計画を立て直したが、納入までに時間が要すること、コロナ禍で大学動物実験施設の規模を縮小していることから、大幅な研究計画の見直しが必要になったために、研究が大幅に遅れることになった。
令和3年度に行った解析について論文にまとめて現在投稿中である。C/EBPεnullマウスを用いた研究は現実的に困難になったため、これまでに行った実験結果を基に研究を進める予定である。具体的には、野生型マウスとDmp1Cre:Socs3f/fマウスに抗Ly6G抗体を投与して、骨髄中の成熟好中球を除去した実験結果で、大腿骨での骨細胞に関係するmRNAの発現量が、野生型マウスとDmp1Cre:Socs3f/fマウスの両方で、対照群との間に有意な差を認めており、これらの分子に着目して研究を継続する。
当初の研究計画で重要な要素であったC/EBPεnullマウスの入手が困難になったため、研究計画の変更を余儀なくされた。次年度以降でマウスの作成も1つの候補であったため、次年度以降に予算を残しておく必要があると考えられたため、次年度使用額が生じた。
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Cellular and Molecular Life Sciences
巻: 78 ページ: 5755~5773
10.1007/s00018-021-03884-w
Journal of Bone and Mineral Research
巻: 36 ページ: 1999~2016
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