研究課題/領域番号 |
21K07860
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
菅野 直美 (石橋直美) 筑波大学, 医学医療系, 講師 (30738539)
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研究分担者 |
鈴木 英雄 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (00400672)
磯辺 智範 筑波大学, 医学医療系, 教授 (70383643)
内田 文彦 筑波大学, 医学医療系, 講師 (70736008)
岡田 浩介 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (80757526)
正田 純一 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90241827)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | NASH / RNP / 抗酸化剤 / p62 / Nrf2 |
研究実績の概要 |
肥満小児ではNAFLDの有病率が高い.一部は予後不良のNASHへと進展する. 肥満者における腸内細菌叢の乱れと腸管上皮の脆弱は,菌体成分リポ多糖 (LPS) の体内増加によりNASHを発症する. 本学で開発されたSqstm1:Nrf2遺伝子二重欠失 (DKO) マウスは,肥満からNASHを自然発症する.高LPS血症はKupffer細胞と肝星細胞の活性化を亢進し,炎症性障害と線維化反応を進展させNASH発症に至る. 一方, 本学で開発された抗酸化nano-medicine(RNP) は, 経口投与により腸管に高濃度に集積し, ROSsを選択的に消去することにより抗炎症・抗酸化作用を発揮する. 本研究では,6週齢の雄性DKOマウスに通常食(NASHモデル),または,60%高脂肪食(肝癌モデル)を摂餌させながら,RNPを26週間自由飲水投与した.32週齢において,NASHと肝癌の病態解析と,非癌部の肝組織RNA全遺伝子解析(RNA-seq),糞便中の腸内細菌叢のゲノム解析を行った. 通常食群ではRNP投与により肝線維化は抑制された.肝組織のRNA-seq解析では, RNPは小胞体(ER)ストレス応答関連遺伝子群の発現を減少させた.qPCR解析では,Tnf-alphaなどの肝炎症シグナル関連因子,malondialdehydeなどの脂質過酸化マーカーがRNP投与群(R)で抑制された.高脂肪食群ではRNP投与は肝癌発生を抑止した.RNA-seq解析でRNPはERストレス応答関遺伝子群の発現を減少させた.さらに,RNPは非投与の腫瘍発生群と比較して, 肝癌シグナル遺伝子群の発現を減少させた.RNPは高脂肪食摂餌によって低下した腸内細菌叢の種多様性を回復させ, 一部のLPS産生菌の割合を減少させた. RNPによりRNP非投与の腫瘍発生群と比較して, 肝LBP発現は低下していた.Nrf2欠失の状態,RNPは蓄積したERストレスを緩和し,肝線維化や肝発癌を抑止すると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NASHモデル:RNP投与により肝線維化は抑制された.肝組織のRNA-seq解析では, RNPは小胞体(ER)ストレス応答関連遺伝子群の発現を減少させた.qPCR解析では,Tnf-alphaなどの肝炎症シグナル関連因子,malondialdehydeなどの脂質過酸化マーカーがRNP投与群(R)で抑制された.腸内細菌叢解析では腸内細菌の組成に変化を認めなかった. 肝癌モデル:RNP投与は肝癌発生を抑止した(対照群: 33%.RNP群: 0%).RNA-seq解析でRNPはERストレス応答関遺伝子群の発現を減少させた.さらに,RNPは非投与の腫瘍発生群と比較して, 肝癌シグナルであるPI3 kinase経路遺伝子群の発現を減少させた.RNPは高脂肪食摂餌によって低下した腸内細菌叢の種多様性 (alpha-diversity) を回復させ, 一部のLPS産生菌の割合を減少させた. RNPによりRNP非投与の腫瘍発生群と比較して, 肝LBP発現は低下していた. ERストレス応答関連遺伝子群の発現が, 両群でRNPにより減少した原因検索のため,肝組織を用いた脂肪酸組成分析を行なったが, ERストレスの原因として知られているパルミチン酸などの飽和脂肪酸はRNP群で減少していなかった. RNPによるERストレス減少の原因は, 肝の飽和脂肪酸以外の別の機序が働いている可能性があると考えられた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析で,RNPがNASHおよび肝癌モデルマウスの肝線維化と肝発癌を抑止することを明らかにした.今後はRNPが肝線維化,肝発癌を抑制した機序を解明することに焦点を当て,更に実験解析を進める. RNPの抗酸化作用が肝線維化,肝発癌の抑止に関わることが示唆される.今後は,RNPの抗酸化作用の詳細なメカニズムを明らかにするため,培養肝細胞(Hepa1-6)にRNPを投与し,酸化ストレス消去能および酸化ストレス応答遺伝子の発現変化を解析する.更に,細胞外フラックスアナライザー(Agilent Technologies社製)を用いて,RNPがミトコンドリア機能に与える影響およびそのメカニズムの詳細を解明する. また,腸内細菌叢解析ではRNPが腸内細菌叢に影響を及ぼし,LPS産生や酸化ストレス発生に影響を与えた可能性も示唆された. 腸内細菌の組成の変化により短鎖脂肪酸、胆汁酸組成も変化し、線維化、肝癌発症に与えている可能性があるため, 便中脂肪酸解析、胆汁酸解析の追加も検討していく. RNPの肝発癌抑制のメカニズムについては,非癌部(肝硬変部)の全遺伝子検索の結果を元に,DKOマウスの肝発癌に関わる因子の特定と,RNPが影響を与える癌シグナルの詳細をさらに解析していく. 上記の研究計画により,引き続きRNPがNASH発症と肝発癌を抑止するメカニズムについて検証する.最終的にはNASH患者に対して,RNPが新しい経口投与型治療薬となる可能性について追求し,その臨床応用を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度における物品の納品が遅延したためである.
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