研究実績の概要 |
我々はオレキシン、グレリンが中枢神経系に作用し、腸管バリア機能破綻(Leaky gut: LG)を改善することを明らかにしたが、中枢性のLG改善機序はまだまだ未解明な部分が多い。本研究は、この中枢性の腸管バリア機能制御機序の詳細を明らかにすることを目的に、グレリン中枢投与によるLG改善機序の詳細を薬理学的手法などにより検討した。グレリン中枢投与によるLG改善作用はオピオイド、ドパミン、カンナビノイド受容体拮抗薬投与で消失しなかったが、アデノシン受容体拮抗薬投与で消失し、グレリンは脳内アデノシンシグナルを利用しLG改善作用を発揮することを明らかにした。また、アデノシンA1ではなくアデノシンA2B作動薬中枢投与でLG改善作用が示され、脳内アデノシンA2Bシグナルの活性化が腸管バリア機能制御に関与することを見出した。このアデノシンA2B活性化によるLG改善作用は外科的迷走神経切断術で消失し、アデノシンA2Bシグナルによる腸管バリア機能制御機序に迷走神経系が関与すること、さらにアデノシンA2B選択的受容体拮抗薬投与がオレキシンではなくグレリンによるLG改善作用を特異的にブロックしたことから、アデノシンA2Bはグレリンの下流で腸管バリア機能制御に関与することを、それぞれ明らかにした。今回、グレリンの中枢性の腸管バリア制御メカニズムの解析により、アデノシンA2Bシグナルも腸管バリア制御に関与することを明らかにした。アデノシンA2B受容体は脳全体に分布し、炎症や低酸素などで発現が誘導され、その活性化には高濃度のアデノシンを必要とする。アデノシンは自然免疫を起動するダメージ関連分子パターン(DAMPS)という側面もあり、中枢神経系のアデノシンA2Bシグナル活性化による腸管バリア制御は、過剰な炎症反応を予め抑制する点で意義深い。以上の成果は、英文原著論文に報告済みである(Ishioh et al., Experimental Neurology 2021).
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