T細胞の過剰な免疫応答は炎症性腸疾患の主たる誘因であるが、炎症性腸疾患特異的T細胞サブセットは今まで報告されていなかった。我々はヒト腸管粘膜の包括的T細胞プロファイリングを行い、クローン病患者腸管の炎症局所において特異的に発現するCD4陽性組織常在性記憶T細胞サブセットを同定した。この疾患特異的T細胞は炎症性腸疾患の腸粘膜において増加するサイトカインの刺激を受けることによってTh1型サイトカインの分泌が促進する。その結果、周囲の免疫細胞をさらに活性化するとともに、隣接する腸管上皮細胞に作用することによって組織傷害活性が増強することが示唆された。炎症粘膜におけるクローン病特異的CD4陽性T細胞の比率と臨床的活動性の指標には正の相関を認めたことから、このT細胞サブセットの蓄積はクローン病の病理学的特徴の一つであると考えられた。さらに、ヒト腸管粘膜固有層由来のCD4陽性T細胞のシングルセルRNA-seqおよびシングルセルATAC-seqの解析結果を組み合わせることにより、クローン病特異的T細胞サブセットの誘導を制御する転写因子を探索したところ、複数の候補転写因子を絞り込むことができた。これらの転写因子をヒト初代T細胞に過剰発現させると、組織常在性マーカーの発現と炎症性サイトカインが誘導された。 本研究ではヒト免疫細胞の網羅的なプロファイリングにより、クローン病の病態に関する包括的な理解を深めることができた。治療の標的となりうる疾患特異的なT細胞サブセットの同定とその誘導機構の一端の解明は、有効性が高く副作用を最小限に抑えたクローン病の治療戦略の構築につながると考えられる。
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