研究課題/領域番号 |
21K07900
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
松浦 稔 杏林大学, 医学部, 准教授 (30402910)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腸管微生物叢 / 免疫可塑性 |
研究実績の概要 |
無菌(GF)マウスにSPF由来の腸管微生物叢を移入し、移入4週間後におけるレシピエント(元無菌マウス:ex-GFマウス)の腸内細菌叢、腸管構造、免疫プロファイルを検討した。その結果、若年マウスには免疫発達の可塑性があり、さらに週齢相応の腸管微生物叢を選択、構築し、宿主の健常な免疫発達を可能にするメカニズムが存在する可能性が示唆された。そこで、幼少期に生着する腸内細菌叢の選択に関与して、週齢特異的な宿主側の因子について検討した。4週齢および10週齢のGFマウス(雌雄各5匹)を用いて宿主(胸腺、脾臓、腸間膜リンパ節)の免疫状態、回腸ならびに大腸粘膜における遺伝子発現を比較検討した。mRNAマイクロアレイによる腸管粘膜の発現遺伝子プロファイルを検討した結果、雌雄に共通して4週群の回腸粘膜で優位に発現している遺伝子数は29遺伝子、10週群で優位に発現している遺伝子数は27遺伝子であった。同様に大腸粘膜では雌雄に共通して4週群および10週群で優位に発現している遺伝子数はそれぞれ17遺伝子、5遺伝子であった。特に、雌雄の回腸粘膜ではjoining chain of multimeric IgA and IgMの発現が4週群では検出されず、大腸粘膜では10週群で有意に低かった。さらに腸管内容物中のIgA分泌量は4週群で有意に低かった。また4週群の回腸粘膜では雌雄に共通してシアル酸転移酵素をコードするSt3gal6の発現が有意に高かった(雌; p <0.0001、雌; p <0.0001)。以上より、幼少期の腸管粘膜にはIgAが少なく微生物叢に曝露しやすい環境であり、腸管微生物叢の栄養素となるシアル酸が豊富に存在することが予想された。この特徴は生着する腸管細菌叢の選択機構の1つとなる可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では3、7、11週齢の無菌マウスを使用する予定であったが解析に必要な無菌マウス数が大幅に増加するため、研究遂行の実現性を考慮し、若年期(4週齢)と成熟期(10週齢)に絞って当初の計画に従って研究を行った。現在、腸管微生物叢の移入に伴う宿主(マウス)の腸管微生物叢の構成、免疫発達に与える影響についての検討は完了し、そのメカニズムについての解析を進めており、研究タイムラインとおりに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1)幼少期に生着する腸管細菌叢選択機構の解明 幼少期における腸管微生物叢の選択に関して、引き続き、週齢特異的な宿主側の因子についての解析を進める。今後は、細菌構成と腸管粘膜における遺伝子発現の関連、腸管上皮細胞に限定した遺伝子発現についてもマイクロアレイの結果に基づいて検討を進める。また腸管微生物叢の生着に関しては微生物側の因子も関与している可能性が考えられる。今後はMetagenomic shotgun sequencingデータを用いた機能解析、さらstrainレベルでの同定と機能解析を行う。 2)腸管微生物叢への介入時機の違いによる腸炎発症リスクの影響 免疫学的可塑性の観点からみた腸管微生物叢への介入時機による腸炎発症リスクの軽減効果とその影響を明らかにするため、周産期抗菌薬投与IBD動物モデルを用いた検討を行う。具体的には、SPF環境下で抗菌薬を投与されたIL-10KOマウスの母体から生まれた仔の4または10週齢時に、抗菌薬未投与の母体から生まれたそれぞれ同週齢(4または10週齢)の仔から採取した糞便を用いて腸管微生物叢の移入を行い、生存率、DSS腸炎について比較検討する。さらに経時的体重変化、糞便性状を含む臨床所見、糞便中LCN-2濃度、病理組織所見ならびに組織学的スコアを用いて腸管炎症について評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は既に採取した検体サンプルを用いた遺伝子発現などの解析が中心であったため、追加が必要であった試薬のみの使用に留まった。しかし、次年度は腸内細菌叢に関連した解析を再度予定しており、それらに必要な外注検査費用(16SrRNA アンプリコン解析など)が必要となる。そのため、今年度予定していた物品費の一部を次年度に繰り越し充当するため、次年度使用額が生じた。
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