研究課題/領域番号 |
21K07904
|
研究機関 | 長崎国際大学 |
研究代表者 |
佐々木 裕 長崎国際大学, 公私立大学の部局等, 教授 (70235282)
|
研究分担者 |
長岡 克弥 熊本大学, 病院, 助教 (00759524)
渡邊 丈久 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (20634843)
吉村 亮二 長崎国際大学, 公私立大学の部局等, 講師 (20782569) [辞退]
山添 太士 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 肝炎・免疫研究センター, 肝疾患研究部 上級研究員 (20736219)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 栄養環境 / 肝癌細胞 / エピゲノム / 脂質代謝 / NASH |
研究実績の概要 |
先行研究ではエピゲノム制御因子ヒストン脱メチル化酵素LSD2のノックダウン(KD)で、脂質の取り込み、β酸化、コレステロール合成などが亢進することから、LSD2が脂肪代謝のエピゲノム制御因子であることを見出している。そこでLSD2の発現に関与する栄養関連因子を明らかにするために、肝癌細胞HepG2細胞を用いChIP-seq解析を行うと、プロモーター領域にインスリン抵抗性や酸化ストレスに関連する複数の転写因子が結合する可能性を見出した。そこでインスリン抵抗性に関与する転写因子をKDしたところ、LSD2の発現は抑制されなかったが、酸化ストレスにより活性化されるJNKの阻害剤、あるいはJNKの標的である転写因子JunのKDでは、共にLSD2の発現が有意に抑制された。以上より、高血糖あるいはインスリン抵抗性により発生する酸化ストレスとその下流の転写因子がLSD2の発現を変化させ、脂質代謝を修飾すると共に脂肪毒性を軽減させる可能性が示された。 一方、異常な栄養環境がもたらす肝癌細胞の代謝リプログラミングを検討した。4週齢のNOD-SCIDマウスを用いNASH誘導食にて給餌し、5週目の時点で腹腔内グルコース負荷試験から明らかな耐糖能異常が確認された。6週間目の時点でHepG2細胞 2x106個をマウス肝臓に直接注入し(以下、NASH群)、その後17週齢の時点でsacrificeした。HepG2細胞はコントロール群とNASH群共に約半数例で注入部位に腫瘍塊を形成しており、腫瘍塊からmRNAを抽出しcDNAマイクロアレイに供した。両群の腫瘍の比較で変動する遺伝子を遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析に供し、コレステロール代謝関連遺伝子がNASH群に移植したHepG2細胞でエンリッチされていることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異常な栄養環境が肝癌細胞の増殖・転移・浸潤に及ぼす影響を検討するために、NOD-SCIDマウスをNASH誘導食で食餌しNOD-SCIDマウスNASHモデルを作製しえた。そこにヒト肝癌細胞を直接注入することで腫瘍を形成することが可能となり、肝癌細胞の生物学的特性への背景肝の影響を検討できるようになった。今回はNOD-SCIDマウスを用いたNASH肝での解析であったために免疫学的な影響が排除され、背景肝の栄養環境が肝癌細胞の遺伝子発現にどのような影響を及ぼすかを直接的に解析した点も、研究の着実な進捗と考えられる。またNASHの病態形成には脂肪毒性に加え、糖毒性も関与すると報告されている。今回のin vitroの検討では、糖毒性に対して肝癌細胞がエピゲノム制御因子の発現変化を介して、脂質代謝の変動や脂肪毒性の軽減を図る反応を行うことを明らかにした。以上の結果は、エピゲノム制御因子を制御することで、栄養環境に対応する代謝リプログラミングをコントロールし肝癌細胞の増殖・進展を抑制することの可能性を示すものである。
|
今後の研究の推進方策 |
異常な栄養環境に適応し肝癌細胞が代謝リプログラミングを行うことで、増殖進展、治療抵抗性を獲得する可能性がある。そのため、当初の計画に沿って代謝動態の変化やそれらを担う責任分子群を引き続き解析する。 具体的には、マウス正常肝とマウスNASH肝それぞれに直接ヒト肝癌細胞株を注入して形成した肝癌腫瘍間で、網羅的な遺伝子発現差異解析を進めると共に、miRNAの網羅的発現解析を行い、バイオインフォマテイクス解析にて、いかなるmiRNAがNASH肝に移植された肝癌細胞の遺伝子セット(pathway)の活性化に関与するかを明らかにする。一方、エピゲノム制御因子であるLSD2は脂質代謝関連遺伝子を制御していることから、NASH肝における栄養環境とエピゲノム制御因子、並びにその標的遺伝子としての脂質代謝関連遺伝子との機能的連携を解析していく予定である。
|