研究実績の概要 |
肝細胞癌の発癌基盤となる肝線維化病態に対する治療薬は未だ存在しない。そのため、肝線維化への進行に対する治療薬の研究基盤の開発は急務である。申請者は、ヒト肝組織を用いたCpGメチル化網羅的解析から、発現プロモーター上のCpG islandに脱メチル化が生じ発現増加により肝線維化病態形成増悪に働く新規線維化因子TMEM164を同定した。C型肝炎ウイルスを排除したにも関わらず肝発がんする原因の一つとしてこのTMEM164が関与していることを我々は報告した(Cell Mol Gastroenterol Hepatol.2023 May 3:S2352-345X(23)00060-7. doi: 10.1016/j.jcmgh.2023.04.006.)。近年増加している非アルコール性NAFLD/NASHに対してTMEM164はどのような影響があるかを検討した。肥満や脂肪肝モデルである60%高脂肪食、非アルコール性脂肪性肝炎モデルであるコリン欠乏食(CDAA)とメチオニン欠乏食(MCD)を投与したTMEM 164 KOマウスの肝組織は、予想外に、野生型と比較してインスリン感受性の低下、耐糖能の低下、脂肪の蓄積、肝線維化の増悪が見られた。TMEM 164 KOマウスの皮下にマウス肝がん細胞株を移植させたところ、野生型マウスと比較して、腫瘍成長を有意に促した。TMEM 164 KOマウスの皮下腫瘍は、CD31陽性の血管内皮細胞が多く、CD3, CD8, PD1陽性のT細胞が少ないことが観察された。このことから、TMEM 164は肝がんの腫瘍成長を抑制する働きがあることが示唆された。 この同定したTMEM164は申請者独自の因子であり、NASHによる肝線維化形成や肝発がんを抑制する新しい治療標的になり得る可能性をもつ。Tmem164の新たな生理機能の解明は、肝線維化に対する薬剤の開発や創薬基盤に貢献できる。
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