膵臓癌の腫瘍間質には豊富な免疫細胞の浸潤と神経細胞の浸潤が認められており、腫瘍の進展に寄与していることが知られている。慢性膵炎は膵臓癌の主要な危険因子の一つとして知られているが、慢性膵炎による膵発癌促進の詳細な機序は明らかになっていない。これまでの研究において神経シグナルによる膵臓癌進展機序について報告して来たが、慢性膵炎による膵発癌モデルマウスにおいては膵腫瘍周囲にも発達した神経組織を認めており、膵炎による膵臓癌進展機序における神経の役割の重要性が示唆されている。またこのモデルマウスを用いた検討により、腸内細菌叢と膵炎とは相互に影響していることが示唆されている。そこで本研究では腸内細菌叢による膵炎の増悪及び腫瘍内神経への作用、さらに抗腫瘍免疫への作用について明らかにすることを目指している。慢性膵炎を背景とした膵発癌マウスモデルを用いた解析の結果、これらのマウスモデルにおいては特徴的な腸内細菌叢が認められており、このマウスから他のマウスへの便移植によって腫瘍の進展が促進されることが示された。またこの腫瘍進展過程における交感神経シグナルの重要性について明らかにするために、アドレナリン受容体の阻害薬をこのマウスに投与し抗腫瘍効果、免疫細胞浸潤への影響を解析したところ、膵腫瘍の進展は対照と比較して抑制されており、また抗腫瘍免疫抑制性の細胞の減少が認められた。さらにこのマウスモデルに対して抗腫瘍免疫療法を行なったところ腫瘍抑制効果が認められた。
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