研究課題/領域番号 |
21K07912
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
恵荘 裕嗣 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (60760585)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / DNAミスマッチ修復 |
研究実績の概要 |
DNAミスマッチ修復機能が欠損した腫瘍は治療への反応性など通常の癌とは異なることが知られている。以前我々は、炎症性刺激により肝細胞でミスマッチ修復遺伝子MSH2の発現が低下し、発癌に寄与する可能性を報告した(Cancer Research 2016)。本研究では、MSH2を欠損した遺伝子改変マウスに慢性肝炎刺激を加えた動物モデルを作成し、炎症性肝発癌過程におけるMSH2の役割を解明することを目的とした。
【方法】1) 肝細胞特異的にMSH2を欠損した遺伝子改変マウス(AlbCre/MSH2fl/fl)に、チオアセトアミド(TAA)による肝炎刺激を30週間加え、表現型を解析した。2)腫瘍組織の全エクソン解析を行い、変異プロファイルを検討した。3) 背景肝組織のRNAシーケンスを行い、網羅的な遺伝子発現プロファイル解析を行った。また、MSH2をノックダウンした肝癌細胞株の遺伝子発現データと照合し、共通して発現変動する遺伝子群の同定を試みた。
【結果】1)AlbCre/MSH2fl/fl+TAA群で60%の個体に高分化~中分化型肝細胞癌を認め、野生型マウス(WT)+TAA群(24%)と比較し有意に高頻度であった。2)全エクソン解析ではAlbCre/MSH2fl/fl+TAA 群の腫瘍で平均20.7個/結節と変異数が多く(WT+TAA群:平均8.3個/結節)、COSMIC 変異signature解析では、dMMRに関連するsignatureの寄与度が高かった。3)AlbCre/MSH2fl/fl+TAA群の背景肝では、Kras関連遺伝子群などの発癌関連分子の発現変動が認められた。また肝細胞株との統合解析では、細胞増殖制御に関わる転写因子E2F2など、複数の遺伝子で共通した発現変動が同定された。MSH2の欠失で肝発癌が促進され、生じた腫瘍はdMMRの特徴を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果により、DNA修復遺伝子であるMSH2の欠失により肝発癌が促進され、また生じた腫瘍はDNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の特徴を有することが明らかとなった。したがって、MSH2はDNA修復のみならず、細胞増殖の制御にも関わることで、発癌抑制に寄与する可能性が示唆された。 またヒト肝細胞株との統合解析により、細胞増殖制御に関わる転写因子E2F2など、複数の遺伝子で共通した発現変動が同定されており、順調に進展している状況と考えられます。
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今後の研究の推進方策 |
肝細胞特異的にMSH2を欠損した遺伝子改変マウス(AlbCre/MSH2fl/fl)において発生した肝細胞癌について、その表現型解析(PD-L1、CD8の免疫染色等)を行う予定である。 またヒト肝細胞株との統合解析により同定されたE2F2等の遺伝子につき、特にMSH2との関連につき検討する。E2Fファミリーは細胞周期に関わり、MSH2はE2F1の標的遺伝子であることが既に知られているが、E2F2との関連は未報告であり、機能解析を行う予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響により学会出張の機会が減少し、旅費の額が見込みより減少したため。
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