研究実績の概要 |
炎症性肝発癌過程における、ミスマッチ修復遺伝子MSH2の役割を明らかにすることを目的とした。まず肝特異的Msh2ノックアウトマウスモデル(Alb-Cre/Msh2 fl/fl 、以下Msh2KO)を作成し、肝炎刺激として 0.02 %チオアセタミド(TAA)を投与した。その結果、WT+TAAマウスと比較してMsh2KO+TAAマウスでは有意に多くの肝腫瘍の発生を認め、また脂肪滴が多かった。次に発生した腫瘍、およびその脾臓からDNAを抽出し、全エクソン解析を行い、 Msh2KOマウスの腫瘍とMsh2WTマウスの腫瘍の変異プロファイルを比較検討したところ、Msh2KO群ではミスマッチ修復欠損(dMMR)signatureの割合が大幅に増加していた。各腫瘍にて種々の癌関連遺伝子に変異を認めたが、共通するドライバー遺伝子変異は同定されなかった。次にマウスの非腫瘍部の肝組織からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析による発現変動プロファイルの比較を行った。その結果、Kras関連遺伝子群、 TNFαシグナル関連の遺伝子群が Msh2KO群でenrichされており、脂肪酸代謝の遺伝子群がWT群でenrichされていた。 次に、MSH2をノックダウンしたヒト肝癌細胞株からRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析による遺伝子発現プロファイルの比較を行った。MSH2をノックダウンすることにより223個の遺伝子の発現変動がみられ、特に脂質代謝に重要なPPARα関連遺伝子群の発現低下が認められた。 最後に、マウスの肝組織と細胞株のトランスクリプトームデータから、MSH2によって制御される候補遺伝子を抽出した。その結果、MSH2によって調節される5つの候補遺伝子(CPT1A,CROT,E2F2,GABRB1,PCDH7)が抽出された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MSH2によって調節される5つの候補遺伝子(CPT1A,CROT,E2F2,GABRB1,PCDH7)を抽出することができており、そのうちの一つである転写因子E2F2は、MSH2のプロモータ領域に結合することがChIP assayにて判明した。またMsh2KOマウスの背景肝では、 E2F2のポケットタンパクであるRbのリン酸化陽性細胞がWTと比べて多いことも判明した。すなわちMSH2はDNA修復だけでなく、細胞増殖や脂質代謝の制御にも関わり、発癌抑制に寄与する可能性があると考えられ、今後さらなる解析を進める予定である。
|