研究課題
本研究では、MSH2を欠損した遺伝子改変マウスに慢性肝炎刺激を加えた動物モデルを作成し、炎症性肝発癌過程におけるMSH2の役割を解明することを目的とした。【方法】1) 肝細胞特異的にMSH2を欠損した遺伝子改変マウス(AlbCre/MSH2fl/fl)に、0.02%チオアセトアミド(TAA)による肝炎刺激を30週間加え、表現型を解析した。2)腫瘍組織の全エクソン解析を行い、変異プロファイルを検討した。3) 背景肝組織のRNAシーケンスを行い、網羅的な遺伝子発現プロファイル解析を行った。また、MSH2をノックダウンした肝癌細胞株の遺伝子発現データと照合し、共通して発現変動する遺伝子群の同定を試みた。【結果】1)AlbCre/MSH2fl/fl+TAA群で60%の個体に高分化~中分化型肝細胞癌を認め、野生型マウス(WT)+TAA群(24%)と比較し有意に高頻度であった。2)全エクソン解析ではAlbCre/MSH2fl/fl+TAA 群の腫瘍で平均20.7個/結節と変異数が多く、変異signature解析では、dMMRに関連するsignatureの寄与度が高かった。一方、AlbCre/MSH2fl/fl群の肝癌で共通するドライバー遺伝子変異は同定できなかった。3)AlbCre/MSH2fl/fl+TAA群の背景肝では、Kras関連遺伝子群などの発癌関連分子の発現変動が認められた。また肝細胞株との統合解析では、細胞増殖制御に関わる転写因子E2F2など、複数の遺伝子で共通した発現変動が同定された。【結論】MSH2の欠失で肝発癌が促進され、生じた腫瘍はdMMRの特徴を有することが明らかとなった。MSH2はDNA修復のみならず、細胞増殖の制御にも関わることで、発癌抑制に寄与する可能性が示唆された。
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Hepatol Commun.
巻: 7 ページ: e0047
10.1097/HC9.0000000000000047